貨物機テロ防ぐサウジアラビアの諜報力
アルカイダのテロ計画に関する情報収集で欧米も頼りにするサウジアラビア当局の活動の実態
危機一髪 イエメン発アメリカ行きの貨物機から爆発物が発見されたイギリス中部のイースト・ミッドランズ空港 Darren Staples-Reuters
10月末にイギリスとドバイの空港で、イエメンからアメリカへ向かう貨物機から爆発物が発見されたが、その背後には意外な国の活躍があった。サウジアラビアだ。
小包の中から発見された爆発装置はプリンターを改造したもので、携帯電話に接続されたトナーカートリッジにPETN(高性能爆薬)が仕込まれていた。イギリスのテリーサ・メイ内相は、爆薬について「飛行機を墜落させるのに十分な威力の量」だったと語っている。
9・11テロ以降、航空機の荷物や貨物のチェックは強化されているが、今回の小包爆弾は荷物検査で発見されたわけではない。実際は、サウジアラビアの諜報当局からの情報提供のおかげだった。情報源は、イエメンを拠点とするアルカイダ系組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の幹部ジャビル・ファイフィ。先月投降した彼から情報を得て、サウジ情報機関が小包の具体的な追跡情報を欧米に通告したのだ。
テロは根絶ではなく監視するもの
近年、サウジアラビアは欧米を狙ったテロの情報収集において重要な役割を果たしている。03年以降の度重なるテロ攻撃など、自国もアルカイダの脅威にさらされていることから、監視活動に力を入れている。
特にイエメンでの諜報能力は際立っており、国際社会もその恩恵を受けている。イエメンは現在、パキスタンやアフガニスタンを追われたアルカイダのメンバーの巣窟と化している。AQAPを始め、欧米だけでなくサウジアラビア王政の打倒を目指してテロを画策する過激派が逃げ込んでいる。そのためサウジ総合情報庁はひときわ目を光らせており、その活動を通じて欧米を狙ったテロ計画の情報もつかんでいる。
中東情勢に詳しいノルウェー防衛研究所(FFI)の上級研究員トーマス・ヘッグハマーは、「ここ6、7年の間、サウジ当局はイエメンに工作員を派遣し、情報提供者のリクルート活動などを強化している」と言う。「アルカイダ内部にも工作員を潜入させているとみられる」
サウジアラビアはテロの標的にされている国々に対し、定期的に情報を提供している。以前は関与しない立場をとっていたが、03年以降に欧米から強く求められて協力的な姿勢を見せるようになった。10月半ばには、AQAPがテロを計画しているとの情報をフランス政府に提供。同国では、すぐに全土で警戒態勢が敷かれた。
専門家らによれば、サウジアラビアの諜報機関の特徴は、テロは根絶するものではなく、監視するものと認識していること。テロリストを片っ端から殺害・拘束するアメリカなどと違い、テロリストを泳がせて監視を続けることで、最大限の情報をつかむことに成功している。
サウジ諜報機関の「別の顔」
潤沢なオイルマネーもテロ対策を支えている。「サウジ当局はイエメン政府や地方の部族に対して多額の資金を投じている」と、カーネギー国際平和基金中東部門のクリストファー・ボウセックは言う。「そのうえ、対テロ対策の分野ではアメリカともかなり密に協力している」