最新記事

朝鮮半島

北朝鮮「全面戦争」はハッタリだ

韓国艦撃沈への関与を否定して戦争も辞さぬと息巻く金正日だが、朝鮮人民軍に警戒すべき動きはない

2010年5月28日(金)16時31分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

緊迫の38度線 非武装地帯の板門店で韓国側を監視する北朝鮮兵士(5月26日) Lee Jae Won-Reuters

 韓国海軍哨戒艦「天安」の沈没事件への関与を非難され、韓国や国際社会が制裁を加えれば「全面戦争」で応じると息巻く北朝鮮政府。しかし米政府当局者によると、北朝鮮が本気で戦争準備に乗り出した兆候はほとんどないという。

 英ガーディアン紙によると、韓国が5月20日、哨戒艦爆沈は北朝鮮の魚雷攻撃によるものと断定、北朝鮮政府を非難した数時間後に、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記は朝鮮人民軍に戦闘態勢に入れと命じたらしい。だがアメリカの安全保障当局者によれば、米政府は北朝鮮国内で大規模な軍事動員や再配置があったという情報をつかんでいない。朝鮮人民軍は常に移動を繰り返しているが、現時点で特に脅威になり得るものは見当たらないという。
 
 別の米外交当局者も朝鮮人民軍の直近の動向について「極端に警戒すべき情報は一つも入ってきていない」と語る。

 とはいえ、北朝鮮はその気になれば韓国に奇襲攻撃を仕掛けられるだろう。ソウルは南北の非武装地帯から南に約45キロという十分な射程距離圏内にある。北朝鮮は常に前線の砲台に破壊的な攻撃力を維持している。だが、北朝鮮がこれらを使うという無茶な行動に出そうな兆候は一つも見えない。ソウルに砲弾を撃ち込もうものなら、大規模な衝突に発展することは確実だ。

天安撃沈後の中国外遊の意味

 北朝鮮が新たなミサイル実験や核実験を行うことで近隣諸国を威嚇するというシナリオも考えられるが、これも今のところありそうにない。地下核実験については、欧米の情報機関がその兆候を察知するのは容易ではないが、ミサイル実験についてはほぼ把握できる。米当局者によると、新たな実験の準備が進められている気配はまったくないという。

 なぜ哨戒艦を撃沈したのか。金とその側近の不可思議な思考回路については、欧米の情報機関は想像するしかない。だがアメリカの専門家の間で定着しつつある見解は、昨年11月に北朝鮮の艦艇が韓国の砲撃によって損害を被ったとされる事件への報復だというものだ。

 ニューヨーク・タイムズ紙は22日、「金自らが哨戒艦攻撃を指示したと米情報機関は分析」と報じたが、本誌の取材に応じた複数の米政府当局者はこの報道を認めた。さらに彼らは哨戒艦撃沈の後に金が中国を訪問したことに触れ、健康不安が報じられるなかでも、こうした外遊ができるくらいの体力と警戒心を維持していることの証しだと指摘した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米サステナブルファンド、1─3月は過去最大の資金流

ビジネス

北京市、国産AIチップ購入を支援へ 27年までに完

ビジネス

デンソー、今期営業利益予想は87%増 合理化など寄

ビジネス

S&P、ボーイングの格付け見通し引き下げ ジャンク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中