最新記事

視点

パキスタンはテロリストの「デパート」

ニューヨークの車爆弾テロ未遂事件の背後にあると名指しされたパキスタンは、なぜテロリストを輩出し続けるのか

2010年5月10日(月)17時33分
ファリード・ザカリア(国際版編集長)

7つ道具 テロ未遂現場に残された時限装置とみられる時計。タリバンが事件を指示したとされる Reuters

 5月1日、米ニューヨークのタイムズスクエアであった車爆弾テロ未遂事件。テロリストになり損ねた容疑者ファイサル・シャザドの過去は聞きなれたもの、と言えそうだ。ジハードを戦う聖戦士として集められた多くの者と同じく、シャザドは中流層出身で、きちんと教育を受け、表面的には社会に馴染んでいた――そして、何かをきっかけに急進的になった。

 なぜ彼が、罪のない男性や女性、子供を殺そうと彼に思ったのかは分からないかもしれない。だがシャザドの過去には、他のテロリストやテロ未遂犯の多くとの重要な共通点がある。パキスタンとのつながりだ。

 イギリス政府は、過去10年で暴いたテロ計画の70%がパキスタンにつながっていると見積もっている。イスラム世界でジハードへの支持が低下しているにも関わらず、パキスタンは今もテロリストの温床になっている。エジプトからヨルダン、マレーシアやインドネシアまで、イスラム過激派組織は軍事面で弱体化していており、政治面での支持も大分失っている。ではなぜパキスタンでは違うのか? 答えは簡単。建国の時からパキスタン政府はジハード集団を支援し、盛んに活動できる環境を作ってきたからだ。近年ではその方向性も一部変わってきているが、腐敗の根は深い。

建国まで遡るテロ組織との関係

 協力を求めて「買い物」に出かけるテロリスト志望者にとって、パキスタンはスーパーマーケットのような存在だ。ジャイシェ・ムハマド(ムハマドの軍隊)、ラシュカレ・トイバ、アルカイダ、ハッカニ・ネットワーク、パキスタン・タリバン運動(TTP)など、ジハード組織は枚挙に暇がない。カシミール地方の分離独立を目指すイスラム教過激派組織ラシュカレ・トイバのような主要グループは、偽装団体を隠れ蓑にしてパキスタン全土で堂々と活動している。そしてどの組織も、資金や武器の調達には苦労していないようだ。

 パキスタン人の学者で政治家のフセイン・ハッカニは名著『パキスタン――モスクと軍の間で』の中で、パキスタン政府と聖戦士の関係はイスラム国家としての建国まで遡ること、それは国内の支持を得て長年のライバル国インドを弱体化させるためにジハードを利用するという歴代政権の決定にも関係していることを書いている。ハッカニは、軍高官がテロリストと「自由を求める戦士」を区別していることに触れ、問題は体系的なものだと説明する。「この二元性は......歴史と、政府の一貫した方針に根ざす構造的な問題だ。ある政権の方針による偶然の結果ではない」。皮肉なことにハッカニは現在、駐米パキスタン大使を務めている(悲しいかな、彼を派遣している文民政権はほとんど実権がないようだ。このところ軍が勢力を強めている)。

 ここ数カ月、パキスタン政府と軍は国内のテロリストに対してかつてないほど強硬な姿勢を取っており、軍も甚大な被害を出している。それでも、「テロリストを区別する」という軍幹部の不可解な態度は変わらない。パキスタン国民を脅かし、攻撃するテロリストに対しては激しい怒りを見せる。一方でアフガニスタン人やインド人、西洋人を脅かし、攻撃しするテロリストの多くは放置されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドルの地位、関税で低下も 現時点では基軸通貨の座を

ビジネス

トヨタが実証都市での実験開始、300人まず入居 最

ビジネス

独経済、向こう2年間で勢い回復へ 主要研究所が予測

ワールド

台湾、巨大台風被災地で不明者捜索続く 避難指示に課
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 7
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 8
    トランプの支持率さらに低下──関税が最大の足かせ、…
  • 9
    トランプは「左派のせい」と主張するが...トランプ政…
  • 10
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 10
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中