最新記事

安全保障

核廃絶は世界の平和を破壊する

オバマが目指す核のない世界は、戦後64年続いた「核による平和」を崩壊させかねない。非現実的な理想論を掲げるより、やるべきことは他にある

2010年4月13日(火)15時03分
ジョナサン・テッパーマン(国際版副編集長)

抑止は本物 印パは核兵器を保有してから1度も戦争をしていない(インドが08年5月に行った、核弾頭搭載可能な中距離弾道ミサイル「アグニ3」の発射実験) Reuters

 9月24日、ニューヨークで国連安全保障理事会の特別会合が開かれる。安保理の議長を務めるバラク・オバマ米大統領が、核のない世界を実現するため提案した首脳級会議だ。

 オバマは昨年の大統領選のときから核廃絶を唱え、今年4月にはチェコの首都プラハで米政府の正式な目標にすると宣言。イランや北朝鮮の核開発もやめさせようと努力してきた。

 こうした取り組みは1つの前提に基づいている。核兵器はアメリカの安全保障にとって「最大の脅威」であるというものだ。

 この主張は実にもっともらしい。広島や長崎の写真を見たことがある人なら、誰でも直感的に賛成するはずだ。広く支持される主張でもある。アメリカではアイゼンハワー以降、何人もの大統領が似たようなことを口にしてきた。

 核兵器の全廃は無理でも、核の拡散防止ならオバマだけでなく、ロシアのウラジーミル・プーチン首相も中国の胡錦濤国家主席も、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相も同意するはずだ。ただし、1つだけ問題がある。前提になる考え方自体が間違っている可能性が高いのだ。

 核兵器が世界を危険なものにしているとは限らない──今ではそう示唆する研究が増えている。むしろ核兵器は世界をより安全な場所にしている可能性がある。

 ならず者国家と国際テロリストが暗躍する今の時代に、こんな見方に同調する政治家や政策当局者は皆無に近い。しかし、暴論と決め付けるのは誤りだ。

 オバマの理想主義的な訴えが実現する可能性は低い。本気で世界をもっと安全にしたいのなら、米政府にはもっと重要で実行可能な(あるいは実行すべき)措置がある。「核なき世界」という理想論は非現実的であり、ことによると望ましい目標でもない。

 核兵器が平和に役立つという説は、単純な2つの経験則に基づいている。まず、核兵器は1945年以降、1度も使用されていない。第2に、核兵器を保有する国々の間では、核戦争どころか通常の戦争も起きたことがない。20世紀が血まみれの世紀だったことを考えると、驚異的な事実だ。

「核楽観主義者」の代表格であるカリフォルニア大学バークレー校のケネス・ウォルツ教授(政治学)は言う。「世界は広島以来64年間、(核を保有してきた)経験がある。これほどの長期間、核保有国同士の戦争が1度もなかったというのは歴史的にも異例中の異例だ」

 なぜそんな異例の時代が続いたのか、そしてなぜ今後も続きそうなのか。その理由を理解するには、すべての国がいざというときには理性的に行動するという事実に目を向ける必要がある。

 世界の指導者のなかには愚か者も卑劣漢も、金の亡者も悪党もいるだろう。だが彼らには、うまくやれると確信しない限り行動を起こさないという共通の傾向がある。

「核戦争に勝者はない」

 例えば戦争。国家の指導者が戦争を始めるのは、その代償がほぼ間違いなく許容可能な範囲にとどまると判断できた場合だけだ。ヒトラーでさえ、勝てる見込みがないと判断した戦争はしなかった。

 だが、核兵器は戦争の代償を許容不可能なレベルに引き上げた。2つの国がボタン1つで相手を灰にする能力を持っている状況では、どちらにも勝つ見込みはない。どんなに無謀な独裁者も、戦争は割に合わないと判断せざるを得ない。「勝てない上に、すべてを失うかもしれないのに、戦争などできるはずがない」と、ウォルツは言う。

 実際、冷戦時代に超大国の核武装を支えた2つの理論──核抑止力と相互確証破壊(MAD)は「核による平和」を生み出した。第二次大戦後、世界の主要国が異例の長期間にわたり衝突を回避してきたのはそのためだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英2月財政赤字、予想大幅に上回る イラン戦争が重し

ワールド

在宅勤務や航空機利用自粛、エネ高騰対応でIEAが提

ビジネス

中国レアアース磁石輸出、1─2月は前年比8.2%増

ビジネス

英中銀の緩和観測後退、JPモルガンは利上げ予想に転
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
  • 4
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 9
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 10
    「嘘でしょ!」空港で「まさかの持ち物」を武器と勘…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中