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偽善だらけのエコライフ

省エネ製品を買うと人は不道徳になる? 新研究が明かす「エコ偽善」の危うさ

2010年4月27日(火)15時36分
シャロン・ベグリー(サイエンス担当)

「エコ偽善」の歴史は、たぶん恐ろしく古い。石器時代の人々も野生動物への愛を口にしながら、平気で狩猟に出掛けていたに違いない。だがいくら歴史は長くても、人がなぜ「エコ偽善」に陥るかはよく分かっていなかった。

 もちろん、人間の習性による部分は大きい。例えば言行不一致(相乗り通勤はいいアイデアだと言いながら、オフロード車を乗り回す)や、例外主義(ジェット機は環境に悪いが、自分が気候変動会議に出席するため自家用機で乗り付けるのは構わない)といったことだ。しかしエコ偽善がこれほどはびこる裏には、もっと大きな理由がありそうだ。

 有機食品や省エネ電球を買うと、人は善行をした気分になる。その道徳的満足感こそが、エコ偽善の原因になっている可能性がある。

 新しく登場した「代償的道徳」説によれば、人間には自分の品位にふさわしいと考える「道徳レベル」を一定に調整する感覚が備わっている。いくつかの善行でそのレベルに達すると、後は道徳的な行いにかまけなくなるのだという。

「善行は、非社会的で不道徳な行動の免罪符になり得る」と、トロント大学のニナ・マザーとチェンボ・ゾンは間もなくサイコロジカル・サイエンス誌上で発表する論文に書いている。

 マザーらの見方は2件の実験からもたらされた。まずは156人の被験者(トロント大学の学生)にオンラインショップを閲覧させた。エコ製品中心の店と、そうではない店だ。

 その後、被験者の一部に、別室にいるパートナー(実際にはいない)と6ドルを好きな割合で分けさせた。するとエコな店に行った被験者のほうが、通常の店に行った被験者より気前が良かった。「エコ組」のパートナーの取り分は平均2.12ドルで、「通常組」の1.59ドルより約3割多かった。

盗んだ金額は6倍以上

 ここには、心理学でいう「プライミング(呼び水)効果」が見られる。私たちの行動は、ほんのわずかな刺激に影響される。高級レストランの写真を見ただけでテーブルマナーが向上したり、アップルのロゴを見ただけで独創性が高まったりする。これと同じで、高い道徳レベルと無私無欲を象徴するエコ製品を見ただけで、人は無意識のうちに、より道徳的で寛大に振る舞うようになる。

 ところがオンラインショップで実際に買い物をした後では、効果はまったく逆だった。エコな店で買い物をした人は普通の店で買い物をした人に比べて、パートナーへの分け前を渋った(1.76ドル対2.18ドル)。

 その後、被験者にコンピューターゲームをさせた。簡単に不正を働いたり、結果について嘘の報告ができるように設定し、そのほうが多額のお金をもらえるようにした。すると不正を働いた被験者は、エコな店で買い物をした人のほうが多かった。

 さらに獲得したお金を封筒の中から自分で持っていくよう指示したところ、実際の獲得額を超えて持ち去った(盗んだ)金額は、エコな購買者が通常の購買者の6倍に達したという。マザーが私に語ったように「『道徳ポイント』を稼ぐと、非道徳的なことをする傾向が強まる」わけだ。

 ここで注目すべきなのは、道徳的な釣り合いを取るための行動が、お金について太っ腹になったり、コンピューターゲームで不正を働くなど、エコとは関係のない領域で起きていることだ。「人の行動をいい方向に改めさせたいときは、裏目に出る危険性があることに注意しなければならない」と、マザーは言う。

怖いのは「エコ」の反動

 この実験にはお決まりの批判ができる。被験者はみんな大学生で、社会を反映したサンプルではない。実験の状況もリアルなものではない。ゲームをしているだけで、例えば目の不自由な人が道路を渡るのを手助けするかどうかをみたわけではない。

 コンピューターゲームで稼げた金も少額で、1回1ドルにも満たなかった。それでもマザーは、リアルなお金であることに変わりないから、実験結果は現実の世界に当てはまると考えている。

 エコな行為の反動がどのくらい強力なものかは分からない。生態系に優しい方法で栽培されたコーヒーを買ったら、人を押しのけるようになるのか。パソコンをリサイクルに出しただけで、順番待ちの列に割り込むようになるのだろうか。

 私の夫はドアの断熱処理をして、地球に優しいことをしたばかりだ。取りあえず納税申告書は、私が書くことにしよう。

[2010年3月31日号掲載]

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