最新記事

外交

ハマス暗殺事件にキレるイギリス

ドバイのホテルでパレスチナ過激派ハマス幹部を殺害した犯行グループが、イギリスなどの偽造旅券を所持していたことから問題が拡大。事件の背後にはイスラエルの影が……

2010年2月19日(金)17時49分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

スパイを探せ? イギリスの偽造旅券に使われていた実行犯とされる6人の顔写真(左下が文中のマイケル・バーニーの名を語った人物) Reuters

 1月にアラブ首長国連邦(UAE)で起こった暗殺事件の犯行グループがイギリスの偽造旅券を所持していた問題で、イギリス外務省は駐英イスラエル大使に面会を申し込み、18日に話し合いを行った。

 1月19日、ドバイのホテルの一室でパレスチナ過激派ハマスの幹部が暗殺される事件が発生。ドバイ当局は、犯行グループとされる11人の写真、名前、旅券番号を公表。彼らは偽の旅券を所持していて、そのうちイギリスの旅券を持っていたのが6人、アイルランドが3人で、ドイツとフランスが一人ずつだった。

 イギリス政府とアイルランド政府は、犯行グループに使われた旅券は不正に入手されたものか、偽造されたものだと発言した。この問題が明るみに出てからというもの、旅券に記載された名前と一致するイギリス人数名が名乗り出ている。彼らはこの件に何の関わりもないと主張し、なぜ自分の個人情報が盗まれたのか分からないと話している。

 英外務省が早急にイスラエル大使と面会したのにはわけがある。イギリスのメディアは今回の事件で、イスラエルに個人情報を盗まれたとする数人を取材し、報道。暗殺事件がイスラエルの情報機関モサドによる犯行の可能性があるとの見方を強めている。

 イギリスのメディアと、その報道を慎重に追うアメリカのメディアは、この事件をまるでスパイドラマのように仕立て上げている。

イスラエルは「だんまり」を決め込んでいるが

 ロンドン出身で30年以上前にイスラエルに移住したマイケル・バーニーは、英デイリー・メール紙の取材に応じた。ドバイの捜査官が公表した旅券の名前が自分のものだと知ると、「すぐに自分のパスポートを確認したが、ちゃんとあった。誰かが何らかの手段で私の個人情報を盗み出し、今回の犯行を実行するために使ったとしか考えられない」という。

 バーニーはメディアに、自分は4カ所も心臓バイパス手術を受けた体だと打ち明け、こう主張した。「私はスパイなんていうタマじゃない!」

 イスラエル側に18日の面会を申し込んだことについて、英外務省の公式声明は「大勢のイギリス人がイスラエルとのつながりを指摘されたことを受け、英外務省事務次官とイスラエル大使が面会する」と説明していた。

 面会の後、駐英イスラエル大使のロン・プローザーはイギリス、アイルランド当局者との話し合いで、イスラエル側は「追加情報は提供できなかった」と語っている。

 今後イギリス側は、英重大組織犯罪庁(SOCA)がUAE当局と協力しながら捜査を主導することになるだろう。

 イギリスだけではない。フランスなどの欧米諸国もイスラエルに対する圧力を強め、事件に関して詳細な情報を渡すよう要求。ドイツもイスラエル当局者を召還し、説明を求めている。

 アメリカはこの事件を静観する様子だ。米オバマ政権の当局者と米情報筋は、この件に関するコメントを拒否している。在米イスラエル大使館の広報官は本誌の取材に対し、「この件に関してコメントしない」と述べた。

 一方でイスラエルのアビグドル・リーベルマン外務大臣は17日、イスラエルが関与した証拠は何一つないとし、「イスラエルは返事も、肯定も否定もしない」と発言している。

 あるヨーロッパの政府関係者は、今回の話し合いが「面会」という形をとったことに注目。非公式の雑談以上のものだが、外交会談とはいえないレベルのものだったと指摘している。

 イギリスが外国政府に対して遺憾の意を示すときには通常、相手国の駐英大使を「召還した」と公式な発表が行われる。今回のケースでは、とりあえずまだこの言葉は使われていないようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ワールド

バイデン氏陣営、選挙戦でTikTok使用継続する方

ワールド

スペイン首相が辞任の可能性示唆、妻の汚職疑惑巡り裁

ビジネス

米国株式市場=まちまち、好業績に期待 利回り上昇は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中