最新記事

アジア

中国が見失うアイデンティティー

途上国として、それとも大国として?身の振る舞い方に悩む中国の自己認識クライシス

2010年1月22日(金)15時08分
メリンダ・リウ(北京支局長)

 バラク・オバマ米大統領が初のアジア歴訪で訪れたのは、どちらの中国だろうか。影響力(と外貨準備高)を増しつつある中国か、それとも期せずして超大国になった国のように振る舞う中国か。

 中国を訪れたオバマは、米中は両国間の問題だけではなく、国際的な問題に立ち向かうためにも協力する必要がある、という単純明快なメッセージを発信した。アメリカは、世界的な景気回復から気候変動、核不拡散、さらにはアジアの安全保障に至るあらゆる問題について、中国がさらなる責任を担い、指導力を発揮することを望んでいる。

 だが、中国指導部のなかにはそれを望まない者もいる。「中国は世界で指導力を発揮したいとは思っていない。途上国のリーダーと見られることさえ望んでいない」と、米ブルッキングズ研究所の専門家デービッド・シャンボーは言う。「中国は複数の人格を持ち、『私たちは一体どんな国なのか』と自問している」

 アメリカはアメリカで、アジア地域におけるその指導力が試されている。ジョージ・W・ブッシュ大統領の時代には、中国台頭の陰で同地域でのアメリカの影響力が著しく減退した。

 中国とアメリカはいずれも、おとなしく引っ込んでいるのも嫌だが、出しゃばって相手の感情を害するのも嫌だと考えている。こうした機能不全の新しい米中関係は、アフガニスタン戦争での不快な選択肢(米軍増派や中国の参加)について両国が思案している様子からも浮き彫りになっている。

 アフガニスタンでの戦いは、アメリカとNATO(北大西洋条約機構)にとって厄介なだけではない。戦争の余波がアフガニスタンと国境を接する中国に及べば、中国西部の新疆ウイグル自治区のイスラム教徒たちを刺激し、今年7月のような暴動を引き起こしかねない。

いざとなると「途上国」

 とはいえアメリカの要望ははっきりしている。確かに米政権の内部では、増派の規模や、そもそもアフガニスタン政府が信頼できるパートナーかどうかをめぐって意見が割れている。だが中国に対してアジア地域でもっと大きな指導力を発揮してもらいたいという考えは、政権内で共有されている。例えば、中国の武装警官がアフガニスタン警察の訓練を行うべきだと、シャンボーは考えている。

 しかし中国政府は、実質的な派兵に相当するあらゆる選択肢を避けている。清華大学(北京)の外交政策専門家である閻学通は、「アフガニスタンに派兵した国は、どこも失敗している。なぜ中国がその失敗国リストに名を連ねなければならないのか」と言う。ある中国人はインターネット上のチャットで、「NATOは中国に尻拭いをさせる気だ」と、さらに手厳しい意見を投稿した。

 アメリカと中国は、世界最大の二酸化炭素排出国でもある。そしてジョン・ハンツマン駐中国米大使が指摘するとおり、「米中が足並みを揃えて気候変動と闘うことができなければ、ほかのどの国も協調しないだろう」。

 だが中国はアメリカに対して、温暖化対策の技術向上に掛かるコストの大部分を負担するよう要求している。1世紀にもわたって二酸化炭素を垂れ流してきたアメリカや他の先進国には、その責任がある、というのが彼らの主張だ。

 シャンボーによれば、中国政府内部では今後取るべき道について議論が高まっている。「責任ある大国」の役割を引き受けるべきなのか、それとも「時間稼ぎと能力隠しの裏で物事を進める」という、かつての最高指導者・小平の取った不明瞭な戦略を実践し続けるべきか、という議論だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中