最新記事

ヨーロッパ

英核専門家、国連ビルで謎の飛び降り自殺

イラン核協議に関わるイギリス人専門家がビルから転落死。イラク大量破壊兵器問題で不可解な死を遂げたデービッド・ケリー博士の二の舞か――。

2009年10月23日(金)15時46分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

深まる謎 ハンプトンが転落死したウィーン国際センターには国連の諸機関が入る Herwig Prammer-Reuters

 10月20日に起きたイギリス人核監視専門家の不可解な死について、オーストリア警察が調査を開始した。当初の報道によると、核の監視を国際的に行っている包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)に所属していたティモシー・ハンプトン(47)が、国連の諸機関が入る複合施設、ウィーン国際センターのビルから転落死した。

 オーストリア当局は死体を検視解剖に回すとしている。「全ての状況が自殺を示唆しており、第3者の関与を示すものは1つも見当たらない」と、警察の広報官アレクサンダー・ハスリンガーはフランスのAFP通信に語った。

 しかし米政府の情報筋が語ったところでは、ウィーンの当局者らは各国政府に対して非公式にこう述べた――現段階の調査では第一の死因は自殺となっているが、事故や他殺という可能性を排除したわけではない。公式発表や元国連職員の発言によれば、ハンプトンはビルの屋内にある非常用の吹き抜け階段を12階分(17階から5階まで)落ちたという。

 ハンプトンは、イランとアメリカ、そして欧米諸国の間で協議が続いているイランの核開発問題に関わっていたと報道されている。しかし彼が核協議に加わっていたことは、まだ確認がとれていない。ハンプトンが転落したウィーン国際センターで働いていた元国連職員によると、通常はCTBTOに勤める職員が国際原子力機関(IAEA)の業務に関わることはないという。この複合施設にはIAEA本部も入っており、今回のイランと欧米諸国の核交渉の主な舞台になっている。

 CTBTOの記録によると、10月21日に48歳になるはずだったハンプトンはCTBTOに10年以上勤務しており、以前はイギリスで「核実験禁止条約の監視問題」に取り組んでいた。CTBTOは先月、北朝鮮が5月に行った核実験中の震動に関する調査報告書を発表したが、ハンプトンは共同執筆者4人のうちの1人だった。

 ハンプトンの死は、デービッド・ケリー博士の死と共通点があるようにみえる。ケリーは生物兵器の専門家で、イギリス国防相の顧問だった人物。アメリカのイラク侵攻を支持するイギリス政府が、それを正当化するために虚偽情報を用いたという情報をBBC(英国放送協会)にリークしたとして、議会での証言を求められた直後の03年7月に自殺した。

 ケリーの死因については疑惑がささやかれ、最終的に独立調査委員会が全面的な調査を行った。その結果、当時のトニー・ブレア政権がサダム・フセイン排斥のために情報を誇張(「もっとセクシーに」)したとするBBCの報道は誤りだったことがわかった。しかし一方で、英政府が情報機関に対して、フセイン政権による大量破壊兵器所持の危険性を示すような情報を集めるよう、政治的圧力をかけていたことも暴露された。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク

ワールド

アングル:ロシア社会に迫る大量の帰還兵問題、政治不

ワールド

カーク氏射殺、22歳容疑者を拘束 弾薬に「ファシス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「AIで十分」事務職が減少...日本企業に人材採用抑制…
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中