最新記事

国際政治

超大国中国の貫禄に英高級誌が逆ギレ

英エコノミスト誌は「超大国らしく振る舞わない」と中国を批判したが、本当は超大国らしくなり過ぎたことに腹を立てているだけだ

2009年10月7日(水)16時29分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

紛れもない超大国 自分勝手と文句を言うのは的外れ(10月1日、建国60周年の軍事パレード) CDIC-Reuters

 英経済誌エコノミストといえば、明敏でピリリと皮肉のきいた、やや保守的な分析記事が多いことで知られる。記事にはウィットとバイタリティーがあふれていて、タイムやニューズウィークの記事のほとんどは足元にも及ばない。

 だが、誰だって完璧にはなれない。エコノミスト誌10月3日号の、建国60周年を迎えた中国に関する記事はあまりに的外れだった。中国が「必ずしも超大国のように行動するわけではない」ことを批判し、「これほど自信のない」政府をもつ国が台頭していることを我々は懸念すべきだと結論づけている。

 だが注意深く読むと、この記事の記者が本当に不満に思っているのは、中国が超大国のように振る舞っていることだとよく分かる。中国の一部の政策は、エコノミストのエディターたちの好みではないようだ。

 彼らは、中国は「現状維持の大国」ではない(これは正しい指摘だ)と指摘する。だが、いつの時代の超大国も変化を求めてきた。過去のヨーロッパにおける超大国はほとんど絶え間なく争いを繰り広げ、その対立関係はときに長期にわたる血みどろの戦争をもたらした。

 冷戦時代のアメリカも、ソ連を中心とする共産主義体制を封じ込め、倒そうとした(ソ連政府もアメリカに対して同じことを考えていた)。アメリカもソ連もそのために核戦争を起こすことは望まなかったが、「現状を維持すること」にも関心はなかった。

 ソ連崩壊後、ジョージ・ブッシュ大統領は「単独で権力の頂点に立ち、世界を作り変えるたぐいまれな機会を得た」と言った。これは「現状維持」の考え方とは違う。その後ブッシュの息子が、ライフルを突きつけて中東の大部分を「変身させる」のは素晴らしいアイデアだと思ったことも、エコノミストは忘れてしまったのだろうか? こうした基準で見れば、確かに中国の修正主義的な振る舞いは穏健に見える。

軍備の近代化に仰天するほうが変

 エコノミストは、中国が建国60周年の祝賀行事として大規模な軍事パレードを行ったこと、軍備の近代化を進めていること、そして空母などの建設計画の全容を明らかにしないことにも懸念を示す。これも、仰天するようなことだろうか?

 どんな超大国も、武器を見せびらかすのは大好きだ(アメリカでは年間150回以上の航空ショーが開かれているし、スーパーボウルのときは空軍機がスタジアム上を飛行する)。そして経済的に急成長を遂げている国が、増え続ける富の一部を軍事力増強に差し向けることは誰にでも予想できる。

 中国は「(世界の)どの問題に手を貸すべきか、いまだにえり好みしているようだ」と、エコノミストは非難する。衝撃的? いや、とんでもない。他の国だってそうしている。さらに、中国は自国の人権問題を非難されたり、外国政府がチベットの最高指導者ダライ・ラマの訪問を受け入れたときに過剰反応するとも指摘。それは事実かもしれないが、外国からの批判に激しく反発するのは中国だけではない。

 エコノミストは、中国が「戦略上の常識より、経済的な国益を優先して」おり、その最も顕著な例がエネルギー欲しさにイランの核開発計画をかばっていることだと言う。だが「国益」を最優先に考えない超大国がどこにあるだろう?

我を通すのが超大国の習い性

 イギリスとフランスとイスラエルが核兵器を獲得したとき、アメリカは黙認した(しかもイスラエルは、核拡散防止条約に加盟していない)。98年にインドとパキスタンが核実験をしたときはほんの短期間、形ばかりの経済制裁を課しただけで、あとは何もなかったかのように振舞った。

 それどころかインドはアメリカと戦略的協力関係を結び、(核拡散防止条約に加盟しないまま特例的に)原子力協定という「ごほうび」をもらった。核問題専門誌ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツの最近の記事は、このとき「アメリカとインドの企業部門による強力なロビー活動が、軍縮に関わる人々の懸念を押さえ込むのに一役買った」としている。どうやら「経済的な国益」を最優先している超大国は中国だけではなさそうだ。

 つまりエコノミストを苛立たせているのは、中国が超大国として行動していないことではなく、中国の考える国益が一部の保守的なイギリス人の願望に叶っていないことだ。悪いがエコノミストの皆さん、それは超大国の常というものだ。

 中国は国力を付けるにしたがい、他の超大国と同じように、自らが国益と考えるものを強力にプッシュするようになるだろう。今後も、既存の国際的枠組みに参加しながら、国益を増大させるためにその枠組みを利用し、中国の優先課題と価値観に沿うものに変えようとするだろう。

 中国が、外野の価値判断にぴったり当てはまる行動を取る。そう期待するのは、あまり現実的ではない。

Reprinted with permission from Stephen M Walt's blog , 07/10/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

サムスン電子、第3四半期は32%営業増益へ AI需

ワールド

ベネズエラ、在ノルウェー大使館閉鎖へ ノーベル平和

ビジネス

英中銀、今後の追加利下げの可能性高い=グリーン委員

ビジネス

MSとソフトバンク、英ウェイブへ20億ドル出資で交
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中