出口の見えない第2の「英国病」
大英帝国から引き継いだ分不相応な繁栄と影響力は失われ、小さな島国に戻るときがやってきた
憂鬱と不満 経済的にも軍事的にも「ミニ超大国」として振る舞う力はもうない Andrew Winning-Reuters
イギリスは大英帝国の崩壊後も数十年間、国際社会で「ミニ超大国」として振る舞ってきた。経済力、文化的影響力、核保有に裏打ちされた軍事力、そしてアメリカとの「特別な関係」。そのすべてが相まって、この小さな島国に分不相応な発言力を与えてきた。
だが、時代は変わろうとしている。イギリスは昨年秋の金融危機で手痛い打撃を受け、公的資金による銀行の救済を余儀なくされ、不況の荒波に襲われた。かつて「日の没することなき大帝国」と呼ばれたイギリスだが、これまで生き残っていた帝国的野望にも長く暗い影が差し込んだ。
イギリスは世界における自国の役割の再検討を迫られている。その答えは小さなイギリス──少なくとも「今よりは小さな」イギリスだろう。
IMF(国際通貨基金)によれば、イギリスの公的債務は今後5年間で2倍に増え、対GDP(国内総生産)比で100%に達する見込み。英国立経済社会研究所は、イギリスの1人当たり国民所得が08年前半の水準に戻るまでに6年かかると予測する。
ソフトパワーもハードパワーも低下
その影響は政府の全部門に及びそうだ。国防省と外務省の予算は大幅に削減され、ソフトパワーとハードパワーの両面でイギリスの影響力は低下するだろう。ゴードン・ブラウン首相には、この流れを食い止める手段がほとんどない。この点は、今後10カ月以内に実施される総選挙で勝利を見込む野党・保守党のデービッド・キャメロン党首も同様だ。
保守党の元党首で「影の内閣」の外相を務めるウィリアム・ヘイグは先日の演説でこう語った。「イギリスがこれまでと同レベルの国際的影響力を取り戻すことは、時間の経過とともにますます困難になるだろう」
このところのイギリスは逆風にさらされ続けてきた。中国やインドのような巨大新興国の台頭はイギリスの国際的地位を低下させ、アメリカはイギリスとの特別な関係を見直す姿勢を見せてきた。
「ミニ大国」の終焉を決定付けたのがトニー・ブレア前首相の「(アメリカの)51番目の州戦略」だ。ブレアはアメリカの対テロ戦争に全面協力。アフガニスタンとイラクに兵士を派遣した。
おかげでイギリスは第二次大戦以来、最も大きな発言力を手に入れたが、この短期的な利益はブレアの戦略が国内にもたらした政治的ダメージのせいで吹き飛んだ。