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ブラウン首相にテレビ討論の天罰

人間的に魅力がない上、爆破テロ犯の釈放でリビアと裏取引した疑惑も強まるばかり。最悪のタイミングで行われるイギリス初のテレビ党首討論で、歴史的敗者となるか

2009年9月3日(木)18時24分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

テレビ対決は初 リビア問題でブラウン(左)を吊るし上げたいキャメロン(08年12月) Reuters

 私はアメリカの選挙のやり方があまり好きではない。選挙運動の期間が長すぎるし、政治資金規制も穴だらけで不正がまかりとおっている。だが、ディベートに関しては大したものだと思う。とくにテレビ討論では候補者間の違いがいやでも際立つ。民主主義史上の重要な技術革新だ。

 その点イギリスは遅れていたのだが、それも変わりそうだ。保守党のデービッド・キャメロン党首と自由民主党のニック・クレッグ党首が、次の総選挙に向けてイギリス史上初となるテレビの党首討論に参加することを表明したのだ。

 労働党政権を率いるゴードン・ブラウン首相はこれまでテレビ討論を拒んできた。はっきり言えば無理もない。第一にテレビは魅力的な人向きで、そうでない人には向いていない。第二に、88年にパンナム機を爆破したリビア人、アブデル・バセト・アリ・アルメグラヒをスコットランド自治政府が釈放した問題に関し、ブラウン政権は事前に熟慮した上で首を縦に振っていたことが明らかになってきている。どう釈明しようと、また一つ不利な材料を作ってしまったことは明らかだ。

正義よりカダフィとの取引を優先

 末期癌のテロリストを釈放するというスコットランドの決断を「尊重した」だけ、という2日のブラウンの発言も、人々の怒りをなだめる役には立たなかった。テロ犠牲者のための正義より殺人犯への温情を優先し、最大の同盟国アメリカを敵に回した上、いかに言い訳しようとも、リビアの狂人じみた指導者の歓心を買うことで関係改善を図ったことは否定できない。アルメグラヒが死ぬ前に親族に会わせるためなどと理屈を並べても(270人の犠牲者には家族に会う機会などなかった)、この窮状はブラウン政権が利益と引き換えに自ら選び取ったものだ。

 ブラウンの他の失政(イギリス経済を台無しにしたこととか)と、キャメロンが(万一次期首相になったとして)国際社会でイギリスに恥をかかせること間違いなしの愚か者であることを考えると、テレビ討論に出る3人のうち誰になりたいかを選ぶとしたら、少数野党だがクレッグに決まりだ。討論の結果がどうなろうと、それは選挙の一部であり、ブラウンに逃れるすべはない。

 テレビ討論での勝算に関し、ブラウンはいつも議会でディベートを行っている、と側近は言う。毎週行われる党首討論「クエスチョンタイム」は確かに貴重だが、独自のルールや儀礼の制約がある。イギリスの有権者には、もっと自由な討論を見る機会が必要だ。問い質したいことのリストが長くなるほど討論は重要性を増すし、価値ある議論になる可能性も大きくなる。

 ブラウンはリビアの最高指導者ムアマル・カダフィと取引したことを何と言って正当化するのだろう。キャメロンは欧州議会でポーランドの元ネオナチ党員と手を組んだことをどう弁明するのだろう。こういうときこそテレビは、熱気と発見を提供する最高のメディアになる。

[米国東部時間2009年09月02日(水)12時51分更新]

Reprinted with permission from David J. Rothkopf's blog, 03/09/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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