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スコットランド爆破テロ犯釈放で燃え上がる愛国心
パンナム機爆破事件の犯人を釈放したスコットランド自治政府に国際社会から非難が殺到。市民は外国の干渉に反発し、むしろ独立心を強めている
英スコットランドが最近、国際政治の舞台で苦いデビューを果たした。99年に大幅な自治権を獲得して自治政府と自治議会、それに独自の司法権を持っているが、外交はイギリス政府が一手に引き受けてきた。
ところがスコットランド自治政府が8月20日、リビア人元情報機関員の爆破テロ受刑囚アブデル・バセト・アリ・アルメグラヒを釈放したため、世界中で非難の嵐が巻き起こったのだ。
アルメグラヒは、88年に米パンアメリカン航空機をスコットランドのロッカビー上空で爆破した主犯として、終身刑に服していた。だが最近末期癌と診断されたため、スコットランド政府が恩赦を決め、リビアに帰国させた。
多くの犠牲者を出したアメリカではクリントン国務長官をはじめ多くの政治家が猛反発し、国民からはスコットランド製品ボイコットの声も上がっている。スコットランドの野党議員らも、自治政府がスコットランドの名を汚し、大恥をさらしたと非難している。
野党・スコットランド保守党のアナベル・ゴールディー党首は、「(アルメグラヒの)釈放決定がスコットランドの名においてなされたのではないことをはっきりさせたい」と憤る。
だがスコットランド市民の多くが今回の決定を疑問視しているわけではない。むしろ国際的な非難は皮肉にもスコットランド人の愛国心を高めるかもしれない。
弱者に味方するスコットランド魂
最新の世論調査によると、スコットランドの有権者は外国の「内政干渉」に憤慨している。スコットランドには元来、温情的理由に基づき受刑者の早期釈放を認める慣行があり、アルメグラヒの釈放もそれにのっとっていたからだ。
有権者の69%はスコットランドの国際的評判が落ちたことを認めるが、それでも43%が自治政府の決定を支持。法律家の間でも、マカスキル司法相の判断を正しいと見なす声が3分の2に上る。カトリックとプロテスタントの教会指導者も釈放を支持している。
「スコットランド人は何よりも弱者を愛する」と、政治評論家のレスリー・リドックは言う。また政府はアメリカの非難に屈せず、「スコットランドは世界最強の国にも追従しない」という態度を示すことで「ちょっとしたブレイブハート(勇敢な英雄)になった気分になっている」と指摘する。
ちょうど与党・スコットランド民族党は、スコットランドの独立を問う住民投票を来年実施するよう提案しており、近く自治議会でその是非が審議される予定だ。それだけに今回の騒ぎは与党側にとってプラスになるかもしれない。
「かつてスコットランド民族党はあまりにも大衆迎合的で危険と見なされていた」と、ストラスクライド大学(グラスゴー)のジェームズ・ミッチェル教授(政治学)は指摘する。だが今回は「タフな決断ができる政党であることを示した」。
アルメグラヒ釈放が正しかったか否かはともかく、スコットランド人はその決定を下す自由を守るために立ち上がろうとしている。
[2009年9月 9日号掲載]