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「エピペン」に代わる錠剤投与で食物アレルギー患者を注射器から解放

No More Needles

2019年12月25日(水)17時45分
ニューズウィーク日本版編集部

――エピネフリン注射が必要な患者は、子供がほとんどか。

患者の年齢層はさまざまだが、子供のほうが厄介だ。そもそも注射自体を怖がり、アレルギー反応が起きている最中はなおさらだ。

――エピネフリンの錠剤に期待することは?

患者が気楽に、使用期限切れや暑い屋外に長時間放置するのを心配せずに、携帯できるようにしたい。アナフィラキシーの治療法、すなわちエピネフリンの投与方法が一変するだろう。

錠剤ならストレスが大幅に減る。アナフィラキシーの子供を持つ親はストレスと不安を抱えている。わが子が学校やキャンプや外泊先で無事かどうか、毎日気をもんでいる。食べるものを逐一チェックしなくてはならず、普通の子供と違ってチョコレートバーやスナック菓子を差し出されても飛び付けない子もいる。患者が注射器の心配ばかりしないで、もっと普通に暮らせるよう手助けしたい。

――アナフィラキシーで死亡する恐れもあるか。

重症の場合、特に放置したり、治療が大幅に遅れたりすれば、死亡することもある。 それが不安の原因にもなっている。

――アナフィラキシーとは何か? エピネフリンが効く仕組みは?

アレルゲンに触れると患者の体内で過剰反応が起こり、最終的に喉が収縮して呼吸ができなくなる場合がある。アナフィラキシーの症状としては、喉の腫れ、呼吸困難、会話困難、嚥下困難、血圧降下などがある。エピネフリンは血圧を正常に戻し、血液循環を促し、肺の平滑筋を弛緩させて呼吸しやすくする。そのためには迅速な投与が必要で、遅れれば重症化の恐れがある。

――そこが錠剤の強みか。

薬剤自体は注射と全く同じだ。注射とそのデメリットに制約されない。常に携帯するには注射器よりはるかに楽だ。

――コストも安上がりなのか。

コストについては製薬会社のマーケティングによる部分が大きいが、普通は注射器の構造、注射器そのもののコストと関連がある。うまくいけば注射器ほど高くならないのではないか。

――製造スケジュールは?

前臨床段階は完了。次は米食品医薬品局(FDA)の承認を得るため臨床試験に進む予定だ。市場参入までには5~6年かかるだろう。

――過去の同様の試みとの違いは?

薬剤自体も非常に扱いにくい。私たちは安定した状態のままで保管でき、しかも舌下で30秒以内に溶けて十分な量の薬を放出し、素早く吸収される基盤をつくることができた。薬の微小結晶の合成に成功し、舌下投与で注射並みの薬効を実現するのに必要な量を減らすことが可能になった。

――ほかにも応用できるか。

神経ガスのサリンを使用した攻撃の被害者の治療にも使える。サリンの中毒症状に有効なガス解毒剤アトロピンも、現状では注射で投与するしかない。だが私たちが開発した舌下タイプの錠剤なら、アトロピンをより有効で体への負担も少ない方法で投与できる。既に特許も申請済みだ。これで多くの命を救えると思う。農薬にさらされている農家の人々にも使える。

――成功したら20年後の世界はどうなっていると思うか。

多様な薬物分子に応用できるようになればいい。一刻を争う状態の患者を救いたい。さまざまな症状の治療コストが劇的に安くなる。


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