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米政治米大統領選を決する4%票の正体
中南米系の若い女性に1人2000ドル渡したほうが効果的?
オバマかロムニー(写真)か、本選では浮動票を制した者が勝利する Darrel Byers-Reuters
アメリカ大統領選は直接選挙ではない。建国の父たちがへまをしたおかげで、州ごとに選挙人を選び、その選挙人が大統領を選ぶ間接選挙がいまだに採用されている。原則として州ごとの総取り制で、その州で1票でも多くの票を得た候補が、州ごとに割り当てられた選挙人という「票」をすべてもらえる。
選挙人の数が多いカリフォルニア州やニューヨーク州、イリノイ州(どの州も現職バラク・オバマを支持することが確実)、テキサス州(圧倒的に共和党が強い)では結果は見えたも同然。つまりアメリカ国民のほぼ3分の1に当たる、9540万人分の票の行方はもう決まっている。
それだけではない。アラスカ州は共和党のミット・ロムニー候補が圧倒的に優勢。ハワイ州はオバマ応援団だし、ユタ州はロムニー王国で、マサチューセッツ州はオバマで結束している。実は44もの州で11月の大統領選の帰趨は決定済みと言え、最終結果は残りの6州に懸かっている。東海岸のバージニア州とフロリダ州、中西部のオハイオ州とアイオワ州、南西部のニューメキシコ州とコロラド州だ。
ただしこの6州ではオバマとロムニーの支持率はほぼ48%ずつなので、勝敗に影響を与えるのは有権者の4%である91万6643人。カリフォルニア州サンノゼ市の人口と同じくらいだ。
そうなると、問題は浮動票層の91万6643人にいかに訴えるかだ。政党や両候補の選挙対策本部、応援団体がこのほんのわずかな人々の心をつかむために費やす金額は計20億ドル。1票当たり2181.87ドルの計算だ。
世論調査の専門家によれば彼らの大半が女性で、しかも比較的若い。年長の有権者ほど自分のやり方や考えにこだわるが、若者は何事についても説得を受け入れやすい。浮動票層の多くは高卒で、かなりの数のヒスパニック(中南米系)が含まれる。
失言なんて気にしない
だから重視すべきなのは、自分で生計を立て、子供を育てているために大学に進む余裕がない中南米系の若い女性だ。ロムニーから彼女へのメッセージはこうだ。「オバマが君の生活をめちゃくちゃにした。彼は何億ドルも浪費したが、君の暮らしは悪くなった。私は実業家だから、この状況を正すことができる」。まあ、ここまではいいとしよう。
だがオバマを個人攻撃するだけで、将来に向けた明確な経済政策を打ち出さなければ、ロムニーの選挙運動は的外れな方向へそれていくだろう。
一方のオバマは、高卒の働く母親にこう訴える。「めちゃくちゃな状況は前政権から引き継いだものだ。われわれは自動車産業を救い、公正賃金法を成立させ、430万人分の雇用を創出するなど事態を好転させている。だがロムニーが選ばれたら、富裕層向けの減税を行い、教育やメディケア(高齢者医療保険制度)など中流層を支える制度を骨抜きにするような、かつての失政に戻るだろう」
オバマがやるべきでないのは、業績を誇示すること。生活が厳しい時代には、「すごい業績を挙げた」などという話は聞きたくないものだ。浮動票層が知りたいのは、自分のために何をしてくれるか。ここでも、将来を見据えた発言が重要だ。
浮動票層がすぐに動きだすことは期待しないほうがいい。彼女たちは政治好きな人ほど失言や世論調査を気にしない。党大会の様子や討論会の一部をちらりと見て、投票日の11月6日になったら、どちらが自分のような中流層のために経済を立て直してくれるかと考えるだろう。
結局彼女たちは候補者がテレビCMを中止して、2181.87ドルを分け与えてくれるほうがうれしいのではないか。
[2012年7月25日号掲載]