最新記事

経済

アメリカ人「資本主義はもうたくさん」

自由市場に対する支持率は今や中国やブラジルのほうが高い

2011年4月8日(金)16時22分
トマス・ミュシャ

冬の時代 長引く不況が貧困層の資本主義への不信感を助長している(ニュージャージー州の求職者) Mike Segar-Reuters

 世界で最高の経済システムは「自由市場」なのか?

 これはカナダ・トロントを拠点とする調査会社グローブスキャンが02年から毎年行っている世論調査の質問だ。調査の対象は現在、23カ国にまで拡大している。

 調査を開始した頃は、大半のアメリカ人は口をそろえてこう言ったものだ。「当たり前じゃないか。なんでわざわざそんなことを聞く」

 実際、02年の調査ではアメリカ人の80%が、資本主義と自由市場は世界に繁栄をもたらすのに最も望ましい経済システムだと答えた。この割合は調査対象国の中で、最も高い数値だった。

 しかし、それから10年の間に何が起こったのか。収入格差は広がり続け、大企業やウォール街を舞台としたスキャンダルが繰り返され、失業率は10%を超え、米経済は大恐慌以来で最も暗い時代に迷い込んでしまった。

特に貧困層と女性が否定的

 当然の結果として、自由市場を支持する声は小さくなった。4月6日に発表されたグローブスキャンの最新の調査結果によれば、自由市場は地球の未来にとって最も望ましい経済システムだと考えるアメリカ人は59%だった。

 この割合は今や新興国を下回る。中国では67%、ブラジルも同じく67%だ。68%のドイツが、今も世界で一番、資本主義に満足している国ということになるだろう。

「アメリカだけは資本主義システムへの信頼を失わないと思っていた」と、グローブスキャンのダグ・ミラー会長は今回の調査結果を受けて語った。「これはビジネスにとってグッドニュースではない」

 59%というアメリカの数字は09年から15ポイントの下落となるが、特に貧困層と女性の間で大幅な落ち込みが見られた。グローブスキャンは次のように解説する。

「年収2万ドル以下のアメリカ人は、この1年で自由市場への支持を著しく失った。09年の76%から10年には44%に下落した。女性も同様に、09年の73%から10年は52%となり、自由市場に対し否定的になっている」

 一方、インドでの支持率はアメリカと同じ59%。フランスは約30%に落ち込んでいる──。

 いま何か聞こえなかった?

「近代経済学の父」アダム・スミスがスコットランドの冷たい墓の中で寝返りをうった音かもしれない。

GlobalPost.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドルは上昇へ、債券市場の小さな問題は解決=トランプ

ビジネス

トランプ氏、スマホ・PCなど電子機器の関税を免除 

ワールド

アングル:中国にも「働き方改革」の兆し、長時間労働

ワールド

グリーンランドに「フリーダムシティ」構想、米ハイテ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    車にひかれ怯えていた保護犬が、ついに心を開いた瞬間...胸に顔をうずめた姿に世界が涙
  • 3
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助けを求める目」とその結末
  • 4
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 7
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    娘の「眼球が踊ってる」と撮影、目の「異変」は癌が…
  • 10
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助…
  • 5
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 9
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 10
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中