最新記事

医学

「取れない疲れ」の原因を探れ

原因も治療法も分からない慢性疲労症候群を解明するウイルス研究

2010年12月16日(木)13時34分
クロディア・カルブ(医療担当)

 ローラ・ヒレンブランドが数年前に自らのつらい体験をつづった文章は、いま読んでも身につまされる。ヒレンブランドは『シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説』と、第二次大戦の爆撃手ルイス・ザンペリーニを描いた新刊『不屈』の著者。しかし同時に、慢性疲労症候群(CFS)の患者を代表する最も雄弁な語り手でもある。現在43歳の彼女は、大学時代からこの不可解な病に苦しんできた。

 03年にニューヨーカー誌に寄せたエッセーで、ヒレンブランドは関節の痛み、リンパ節の腫れ、吐き気、疲労感について書いた。むなしく医者を転々とした日々。無関心、恥辱、軽減しない症状。意識がもうろうとして、単語は意味を失い、思考は消えた。「世界が遠く感じられた」と、ヒレンブランドは書いている。「透明なビニールにくるまれているかのようだった」

 CFSという病気自体が何十年もの間、医学的にも科学的にも幾重ものベールに包まれてきた。ヒレンブランドが87年に発症して以降、全米で400万人もの患者がいるこの病について、医師の関心は高まり、研究者は原因についてさまざまな仮説を立てている。

 とはいえ一気に前進とはいかないようだ。今年8月、米国立衛生研究所(NIH)と米食品医薬品局(FDA)の共同研究チームがCFS患者の血液中にレトロウイルスを発見したと発表した。昨年も同様の報告があり、原因と治療法の特定に期待が高まった。しかしこの夏発表された疾病対策センター(CDC)の研究では、ウイルスとの関連性は見つかっていない。現在は、コロンビア大学の著名なウイルス学者らによる全米規模の研究に期待が寄せられている。

「最先端科学は、しばしば確実ではない」と、バンダービルト大学の伝染病専門家ウィリアム・シャフナーは言う。「常に気を引き締めておかなければならない」

終身刑のような病気

 これまでも長い道のりだった。この病気がアメリカで表面化したのは80年代、以来CFS患者は医師の懐疑的な態度に耐えてきた。原因不明で診断法も具体的な治療法もない一連の症状に、医師はなすすべがなかった。ヒレンブランドをはじめ多くの患者が精神科医を紹介された。

 CFSは長いこと二の次にされた。99年には政府の監査で、CDCがCFS用の巨額の予算を別のプログラムに流用していたことが発覚している。CFSは複雑な病気で、症状の経時的変化が大きく患者の範囲も広いので、医学界を当惑させ続けている。平日は平気でも週末になると衰弱する人もいる。特に重症の患者は寝たきりになる。

「CFSは死刑ではないが終身刑に等しい」と、患者支援団体である米慢性疲労免疫不全症候群協会のキム・マクリアリー会長は言う。「患者は人生を十分満喫できない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ2都市にロシアが攻撃、和平協議直後

ビジネス

乳児ボツリヌス症の集団感染、バイハート社の粉ミルク

ワールド

北朝鮮抑止「韓国が主な責任」、米国防総省が関与縮小

ワールド

トランプ政権のEVインフラ助成金停止は違法、米地裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 3
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投稿したアメリカを嘲笑する動画にネット爆笑
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    「これは違法レベル...」飛行機で「史上最悪のマナー…
  • 9
    トランプを支配する「サムライ・ニッポン」的価値観…
  • 10
    「パンダを見たい日本人は中国に来い」...中国の「懲…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 9
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中