外交官は今もなぜ機密を公電で送るのか
外交公電の書式や手順が冷戦時代から変わらないのは、それが下っ端外交官の出世手段だから
暴露が標準 情報を閉じ込められない今、外交機密はそれ自体が安全保障上のお荷物になった(ウィキリークスのサイト) Gary Hershorn-Reuters
告発サイト、ウィキリークスが暴露した米国務省の25万点近い外交公電は、アメリカ外交の内情を知る貴重な窓だ。だがこの先端コミュニケーションの時代に、アメリカの外交官はなぜ電報時代の遺物のような通信手法を使っているのか疑問も沸く。国務省はなぜ、今も公電を送るのだろうか?
理由には、記録や秘密保持、そして出世など様々な要素が絡み合っている。もちろん、国務省の公電が今だに電報のようにケーブルで送られるわけではない。技術的には、70年代前半から電子的な通信方法に変わっている。だが公電の書式と手順は、冷戦時代からほとんど変わっていない。
外交機密の交信という概念は、ルネッサンス期の近代外交の誕生までさかのぼる。各国の大使が封印された外交専用袋で本国政府に機密を送っていた時代。この袋を第3者が開けることは、法律によって禁じられていた。外交専用袋を開けてはならないことは、今も国際法に定められている。
19世紀後半に電報用の海底ケーブルができると、ずっと速く報告が届くようになった。それでも、電報代や暗号化のコストが高いので、長い報告書は相変わらず袋で郵送し、電報が使われるのは短い報告の場合だけだった。
出世のために磨き上げられた文章
例外もある。外交官で政治学者のジョージ・ケナンがソ連からアメリカに送った「ソビエトの行動の源泉」は、米外交史上おそらく最も有名で重要な公電だろう。しかしケナンは単語数5000を超える長文の報告を電報で送ったので、受信する側の国務省は最初、カネの無駄遣いだとカンカンだった。ケナンの「長電報」として知られるエピソードだ。
大使館員は今も、大事な会議の主旨報告や駐在国の政治情勢分析、政策提言などに公電を使う。公電は簡単に暗号化できる上、国務省はその外交活動を永遠に保管することができるメリットがある。
電子公電は通常25年後に公開される。大半の公電には大使の電子署名がついているが、実際には格下のスタッフが書き、大使自身は目も通していない場合が多い。
ウィキリークスが公開した外交公電を読むと、描写の細かさや作家風の趣きに驚かされる。官僚の報告書というより、紀行文学のようだ。よく書かれた公電は、遠くの公館に勤務する地位の低い官僚が名を上げ、ワシントンに返り咲く手段の一つであるため、最大限の効果をもたらすように工夫を凝らして書かれていることも多い。
だが情報氾濫の現代では、ワシントンの外交官や政治家は電子メールやネット検索でも海外の最新事情を知ることができるため、公電の相対的地位は低下する一方だ。