最新記事

メディア

NYタイムズをけなすWSJの愚かさ

ライバル紙を「読みにくい」と攻撃する戦略は自分の価値を下げるだけだ

2010年4月20日(火)16時56分
マリオン・マネカー

見込み違い? WSJを所有するマードックは、地元ニュースを充実させる改革でNYタイムズとの全面対決に乗り出したが Kevin Lamarque-Reuters

 仰々しく、過剰なまでに身構えており、危険なほどに冷淡──。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)のロバート・トムソン編集長は最近ますます、保守系テレビ局FOXニュースのキャスターのような話し方になりつつある。ニューヨーク・オブザーバー今週号でも、ライバル紙であるニューヨーク・タイムズへの威嚇攻撃を繰り広げている。

 きっかけは、WSJが地元ニューヨークのローカル情報をカバーする12ページ前後のニューヨーク地域面を新設すること。WSJを所有するメディア王ルパード・マードックが語ったように、これは「ジャーナリズムの賞を取って全国的な評価を高めることに熱中し、地元ニュースを昔ほどカバーしなくなった」タイムズ紙を意識した改革だ。

 トムソンとマードックは、タイムズ紙への中傷が人々の興味を引くと考えているようだが、おかしな話だ。いい新聞を作れば、読者は増える。なのに、トムソンの以下のような発言を聞くと、彼らが私たちと同じメディア界で生きているとは思えない。


トムソン氏の見解では、「2番目の購読紙」というものはもはや存在しない。「人々はいずれ1紙しか買わなくなり、それはWSJであるべきだ。ニューヨーク・タイムズ紙は読みにくい新聞だ」と、トムソン氏は語った。「読みたい記事がどこにあるのか見つけにくい。WSJのほうがずっと読みやすく、理解しやすい。記事の途中で別のページに飛ぶケースも(タイムズほど)多くない。活字で読むことにイラついていた読者には朗報だ。WSJのとっつきやすさは大きな意味をもつ」


 トムソンの主張は誤解も甚だしい。もはや存在しなくなったのは「第1の購読紙」のほうだ。ニュースは多種多様なメディアを介して、あらゆる方面から押し寄せてくる。ソーシャル・ネットワーキング・サイトや他人とのリアルなコミュニケーション、あるいは速報性が高いケーブルテレビやニュースサイトによって、また聞きの情報に触れる機会も多い。

真の国際紙になる潜在力があるのに

 どれか1つのニュース媒体だけを重視する忠誠心は薄れる一方だ。複数の新聞や雑誌を講読しつつ、ウェブも日常的にチェックしている人々にとっては、ニュースを知るために新聞を読むという発想は失笑ものである。

 われわれは電子的な媒体を通してニュースを消費している。そして、その媒体の主張に共感できる、あるいは役立つ情報が手に入るといった経験値に基づいて利用する媒体を選ぶ。

 WSJには今も、多くの強みがある。ビジネスや経済に精通した記者を多数かかえ、業界への影響力もある。長文の経済記事を毎日掲載するという強みを捨てた紙面改革はマードックの悲しい見込み違いだが、同紙にはビジネスだけでなく文化や政治、テクノロジーまで幅広くカバーする新聞を作れるだけの知的で洗練されたスタッフがそろっている。

 だが、タイムズ紙は難解すぎるなどというトムソンのたわ言を聞くと、心配は尽きない。私には、WSJがタイムズに固執する理由がどうしてもわからない。タイムズは発行部数の少ない地方紙だが、WSJは真の意味で国際的な新聞になる力を備えている。

 今回の中傷によって、WSJはタイムズにダメージを与えたかもしれない。だが、本当の意味でダメージを受けたのはWSJのほうだ。

*The Big Money特約
http://www.thebigmoney.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税で実効税率17%に、製造業「広範に混乱

ワールド

「影の船団」に偽造保険証書発行、ノルウェー金融当局

ワールド

焦点:対日「相互関税」24%、EU超えに政府困惑 

ワールド

OPECプラス8カ国、カザフの超過生産巡り協議へ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中