オバマの暗殺リスクは意外と低い?
オバマへの脅迫が減っている理由についてシークレットサービスが説明するつもりはない、とドノバンは言うが、2人の対テロ戦争担当者(機密情報に関わるため匿名を希望)が取材に応じてくれた。彼らは理由の一つとして、ウサマ・ビンラディンやアイマン・アル・ザワヒリ、アメリカ人アルカイダのアダム・ヤヒエ・ガダンといった大物テロリストが発するメッセージが、今年になって減っている点を挙げた。
オバマは今年6月、カイロでアメリカとイスラム社会の関係改善を呼びかけるスピーチをした。その直前には、オバマに先制パンチを浴びせたいアルカイダから、オバマを罵倒するメッセージが多数浴びせられたが、その後はオバマ攻撃は徐々に勢いを失っている。
先の対テロ戦争担当者の1人は、アルカイダからの脅迫が減った要因として、アフガニスタンやパキスタンで米軍などの軍事圧力が強まり、ビン・ラディンとその一味が「あわてている」可能性を指摘している。
辛口キャスターのオバマ批判がガス抜きに?
もっとも、オバマへの脅迫の大多数はテロリストではなく、アフリカ系アメリカ人大統領の登場に憤る人種差別主義者や極右過激派によるものといわれる。昨年夏、デンバーで行われた大統領選の民主党大会では、オバマをライフルで暗殺する計画を立てた薬物中毒の人種差別主義者3人が逮捕された。
極右過激派の動きをモニタリングする南部貧困法律センターのマーク・ポトクは、大統領選と大統領就任式の前後に脅迫が急増したというシークレットサービスの説明には説得力があると言う。「彼らが指摘した2つの時期は(極右過激派の)怒りが最高に高まった時期と合致する」
一方、彼らからの脅迫件数が減少した理由を説明するのは難しい。ホワイトハウスを脅迫した人を調査したことのある精神科医のジェロルド・ポストは、「一般的に言って、カリスマ性のある指導者ほど(暗殺予告を)受けやすい」とし、脅迫件数の減少に驚きを隠さない。
バージニア大学のラリー・サバト教授(政治学)は、FOXニュースで痛烈なオバマ批判を展開する司会者、グレンベックのような存在が、むしろ「健全」な状態を生み出しているのかもしれないという。過激な思想をもつ人々が暴力に訴えることなく、怒りを発散させるガス抜きの場を提供しているからだ。