雨水活用の先進地域として国際的な注目を集める東京の「意外なあの区」
墨田区の雨水活用状況はマップに落として公開されている。丸印が雨水タンクの設置場所で黄色の背景の京島のところに見える井戸マークが路地尊(墨田区ウェブサイトより抜粋)
<区内にある雨水タンクは750超。ただ「ためて、使う」だけじゃない。雨と上手につき合いながら、気候変動対策と潤いのあるまちづくりを両立させる「NbS」の先駆的事例>
内水氾濫を防ぐアイデア
東京スカイツリーを間近に望む墨田区向島・京島では、所々に「路地尊」と呼ばれる一角がある。地下に雨水をためるタンクがあり、電源が落ちた緊急時にも使えるようレトロな手押しポンプが備えつけてある。
同区には関東大震災や空襲など数々の災害でまちが焼け野原になった経験から、初期消火用水をためる習慣がある。それが現在の雨水活用に結びついた。
路地を歩くと雨樋にDIYでホースを取りつけて雨水を分流させ、かめやバケツなどにためている家が目につく。庭木の水やりや打ち水など生活用水にも使っているそうだ。
東京都の東側は東部低地帯と呼ばれる。墨田区もそのエリアに入り、全域が海抜2メートル以下で、一部は0メートルかそれ以下の低地が広がる。急速な都市化でまちの大部分が舗装されたため、緑被率は都内23区中ワースト3位だ。
もともと水がたまりやすい土地の半分以上がコンクリートとアスファルトに覆われた1970年代、墨田区では逃げ場のない雨水がまちを水浸しにする内水氾濫が繰り返し発生した。
下水道の排水能力を高める方法もあるが、相当な経費と年月がかかる。もっと迅速に区民の窮状をしのぐ方法はないかと1981年、保健所の職員だった村瀬誠さんが自主勉強会を立ち上げ、対策に乗り出した。
原因は下水の処理能力を越える量の雨が短時間になだれ込んでしまうことにある。区や住民が協力して雨水を溜め、後からゆっくり流したら被害は軽減できるはずだと村瀬さんは考えた。
地域に防火用水を備える習慣が根づいていたこともあって、このアイデアはすんなり住民の理解を得た。冒頭の路地尊はその頃まちなかに誕生した雨水貯留場所だ。
区も雨水タンクの設置には前向きで、費用の半分を負担する助成金を出した。今でこそ全国200数十カ所に広がった雨水タンク設置費助成金は、墨田区が第1号だった。公共施設には積極的に雨水タンクを取りつけ、敷地面積500平方メートルを超える民間の施設開発にも雨水貯留の機能設置を指導するようになった。