最新記事

日本社会

意外にも名古屋の名物老舗喫茶はやっていない 愛知の「過剰おもてなし」モーニングセットの謎を追う

2023年2月27日(月)12時40分
大竹敏之(ライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

コスパが高い

コーヒーチケットは割引のプリペイドカードで、しかも特売日を設けてさらにディスカウントして売りさばくケースもしばしば見られます。

店側からすると単価を引き下げるものですが、ある老舗の店主いわく意外やそうならないからくりがあるのだとか。「特売すると、近所の企業の社長さんとか常連さんがまとめ買いするんだよ。そういう人は知り合いに配ることが多く、もらった人は結局使わないことも多い。割引分は未使用分で大体相殺されるんだよ」。

かつての喫茶店全盛期はこんな常連も少なくなかったよう。

ずいぶん太っ腹に思えますが、中小企業の経営者にとっては飲み屋でおごるよりも安上がり。

名古屋人は倹約家の割に見栄っ張りといわれます。コーヒーチケットはそんな気質にぴったりマッチし、少ない出費でも気前のよさをアピールできる、費用対効果の高い交際ツールとしても活用されていたのです。

モーニングサービスはどこで始まったのか

名古屋の喫茶店の専売特許と思われがちなモーニングサービスですが、名古屋に先んじてサービスを始めた"元祖"と呼ばれる町が、同じ愛知県内にふたつあります。

県北部・尾張地方の一宮市、そして県東南部・三河地方の豊橋市です。両市ともに昭和30年代前半から半ばにコーヒーにおまけをつけるサービスが始まり、それが地域全域へと広まったと伝えられます。

興味深いのは、それぞれ発祥の理由が異なり、また地域の産業との関係性が理由となっていること。

常連客へのささやかな還元

一宮市は繊維の町で、特に昭和30年代はその最盛期。町のいたるところに繊維工場があり、機織りの機械が1回ガチャンと鳴るごとに1万円儲かる"ガチャマン景気"にわいていました。

商談も次々に舞い込んでいたのですが、ガチャンガチャンとやかましい工場内では会話もままなりません。そこで、先の名古屋企業と同様に、商談は近くの喫茶店で、となり、一宮では"喫茶店が町工場の応接室"になりました。

喫茶店にとって近所の繊維業者は、毎日のように同伴者とともに利用してくれる大事なお得意さん。その常連たちに少しでも還元しようと、コーヒーにピーナッツとゆで玉子をつけたのが一宮モーニングの始まりとされています。

夜勤明けの朝食代わり

一方の豊橋市では、最初にサービスの恩恵を受けたのは水商売の人たち。

豊橋は駅前に飲み屋街が広がり、喫茶店もその界隈から広まりました。そのうちの一軒が、夜勤明けでコーヒーを飲みに来てくれるスナックやキャバレーの従業員に朝食代わりとなるトーストなどをつけた。これが豊橋モーニング誕生のきっかけだといわれます。

その後、豊橋では郊外にも喫茶店が増えるにしたがい、追加料金でどんどん内容が豪華になるモーニングセットが広まります。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中