韓国映画『ベイビー・ブローカー』で是枝裕和監督が答えたかった問い
Compassion for Discarded Children
(左から)カン・ドンウォン、イ・ジウン(IU)、ソン・ガンホは「赤ちゃんを売る」旅に出る © 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
<赤ちゃんポストへの評価、家族を撮り続けること、IUにオファーした理由、ソン・ガンホのアドバイス──そして、この作品で是枝監督が大切にしたかったこととは>
教会が運営する「赤ちゃんポスト」に子供を預けた未婚の母(イ・ジウン/歌手名IU)と、その赤ちゃんを養父母に売ろうとするブローカー(ソン・ガンホとカン・ドンウォン)、彼らを人身売買で現行犯逮捕するために追う刑事(ペ・ドゥナとイ・ジュヨン)。さまざまな立場の彼らの思いが絡み合い、「赤ちゃんを売る」旅は思わぬ展開へ──。
是枝裕和監督の最新作『ベイビー・ブローカー』はソン・ガンホとカン・ドンウォン、ペ・ドゥナへの当て書きで脚本を書いた韓国映画(日本公開は6月24日)。5月のカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞、キリスト教関係団体から贈られるエキュメニカル審査員賞を受賞し、一足先に公開した韓国でも話題になっている。
「韓国でも日本でも、赤ちゃんポストに対する評価は分かれていて、その両方の目線をきちんと描かないといけないと思った」と話す是枝に本誌・大橋希が話を聞いた。
──韓国で撮ったからこそ、という点はあるか。
赤ちゃんポストの存在自体、韓国でもそれほどポピュラーではないが、預けられる赤ちゃんの数は日本より圧倒的に多い。社会問題になった時期もあり、今回のようなストーリーは韓国の人たちに現実的なものとして受け取ってもらえると思う。
──「人身売買」という言葉から想像するような深刻な作品ではなかった。
赤ちゃんを横流しして売るというのはもちろん悪いこと。ペ・ドゥナ演じる刑事は「あいつらはとんでもない悪人で、母親も無責任」と思っていて、おそらく観客も最初はそうした目線を持つ人が多いだろう。だからカメラが(ブローカーたちの)車の中に入ったとき、そうした先入観とは違う彼らの姿を見せたかった。それがある種の軽さにつながったのかもしれない。
──製作にあたり、さまざまな当事者の声を聞いたと思う。その中で、大切にしなければならないと思ったことは。
日本でも韓国でも赤ちゃんポストへの評価は分かれていて、「命を守るために必要だ」という擁護と「捨てることを助長する」という批判はずっとある。その両方の目線をきちんと描かないといけないと思った。だから登場人物も、違う意見を持つ人たちがいることが大事かな、と考えた。
もう1つ、取材で出会った複数の子供たちが「自分は生まれてきてよかったのか」という根本的な疑問を拭えないまま大人になっていて、やはりそのことが一番重たかった。本人の責任では全くないですからね。社会の責任であって。
その子たちに自分の生を肯定してもらいたい、自分は彼らの疑問を受け止めて、きちんと答えるべきだという気持ちが強くあった。