開放か無差別関税か── アメリカの通商政策は大統領次第
WHO WOULD BENEFIT TRADE MORE
米貿易赤字は縮小しないまま(オークランド港で出港を待つ貨物) JUSTIN SULLIVAN/GETTY IMAGES
世界経済は今、不確実な大問題を抱えている。アメリカの次期大統領が誰になるかだ。
共和党のトランプ前大統領が返り咲けば、何をやるかは予想がつく。中国からの輸入品に対する関税を60%に引き上げ、その他の輸入品には一律10%の関税をかける。
中国が含まれるサプライチェーンに依存する国々も、そこに巻き込まれる。韓国や日本から中国に各種部品を輸出し、それが中国製の各種部品と合体され、最終製品へと組み立てられてアメリカなどへ輸出されている。そのため中国の対米輸出が減れば、韓国や日本の輸出も減る。
問題を回避するためサプライチェーンをインドやベトナムなどを経由するよう変更すれば、いくらか影響を相殺できるかもしれない。しかし、この方法ではコストが高くつくし、解決策として不十分になりそうだ。
「トランプ貿易ショック」の影響は、ここで終わらないだろう。関税のせいで中国の成長が阻害されれば、中国の輸入需要は落ち込む。日本、韓国、東南アジア諸国など中国を主要な貿易相手国とする国々に、またしても打撃が及ぶ恐れがある。
トランプが課す関税はアメリカに対し、ほかにも目立たないが望ましくない影響を2つ与える。第1に輸出の足を引っ張る。トランプの政策はマクロ経済学的にはアメリカの輸入だけでなく輸出も減少させる結果を生むため、貿易相手国としてのアメリカの相対的重要性は低下するだろう。
第2にトランプが課す関税は、米主導で構築された世界経済秩序を損なう。トランプの政策は、WTO(世界貿易機関)の下で負う法的義務に違反する。だがアメリカはWTOの紛争処理機能を弱体化させてきたから、WTOはトランプの保護主義を抑制することもできそうにない。
一方、民主党候補のハリス副大統領が掲げる通商政策の輪郭はそれほど明確でない。バイデン政権の姿勢を継承するならトランプの通商政策ほど常軌を逸したものにはならないだろうが、バイデンから受け継ぐ経済政策全体の中では「負の遺産」になるだろう。トランプの関税の影響ほど急速ではなくても、貿易国としてのアメリカの相対的な衰退を促すことになる。
だが、別の可能性もある。ハリスは民主党のクリントン政権とオバマ政権に倣う形で、再び世界貿易の主導権を握ろうとするかもしれない。包括的かつ先進的TPP協定(CPTPP)に復帰する可能性もある。CPTPPは、環太平洋諸国の貿易協定TPPから発展したものだ。オバマ肝煎りのTPPは、2017年にトランプが大統領に就任してすぐに離脱を決断した。
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