「雇用なき成長」のパラドックス
技術革新は雇用の敵か、イノベーションの味方か--オランダに学ぶ機械と人の分業と新しい価値連鎖
再構築 機械で雇用が減る一方、フリーランスやパートタイムが栄えている訳は? AKINDO-DIGITALVISION VECTORS/GETTY IMAGES
産業革命以降、人間は技術の進歩に対して相反する感情を抱いてきた。新しい技術は解放と進歩と繁栄をもたらす一方で、さまざまな苦悩、とりわけ余剰労働力が増えることへの不安をかき立てる。
技術革新は生産性を向上させ、新しい産業の出現を支え、経済成長と雇用創出を後押ししてきた。新たなイノベーションが生まれるたびに、この前向きのサイクルを加速させる。
しかし今、このサイクルが破綻しているという。機械はますます賢くなり、先進ロボット工学や3Dプリンター、ビッグデータ分析は、高度なスキルを持つ労働者さえ不要にする。
雇用なき成長は、技術革新が雇用を生まないパラドックスでもある。利益性やGDPがどんなにバラ色の成長をうたおうと、もはや人類の繁栄を無邪気に信じることはできない。
これはフランケンシュタインのジレンマなのか。人間がつくった創造物が、人間に襲いかかるのだろうか。あるいは、機械の力を利用して、企業の利益だけでなく社会の発展を支えるように導き、技術革新のパラドックスを克服できるだろうか。
OECD(経済協力開発機構)の01〜13年のデータによると、革新的な資本集約型経済とされるルクセンブルク、ノルウェー、オランダは、1時間当たりの生産性と雇用に関して上位4分の1にランクインする常連の国だ。
なかでもオランダは、昔から「革新の擁護者」とされる。フランスの経営大学院INSEADのグローバル・イノベーション・インデックスでは5位(14年)。大企業の85%が革新的な取り組みを実践し、すべての企業の50%以上が「革新に積極的」だ。技術革新が社会全体を潤す秘密はどこにあるのか。
オランダでは、仕事が家庭に回帰する逆方向の産業革命が進行している。パートタイム(通常、週30時間以下の勤務)とフリーランスが労働者に占める割合は、ヨーロッパで最も高い。全労働者の50%近く、若い世代は62%がパートタイムだが、時給は国全体で比較的高い。