原油価格「急落」の複雑なカラクリ
リビア情勢からシェールガス革命まで多くの要因が絡み合う
見えない兆し アメリカ経済が回復すれば原油価格も上がるはずだが Bariscan Celik/Getty Images
10月2日、世界の原油市場に激震が走った。この数カ月間、緩やかな下降線をたどっていた原油価格が急落したのだ。
国際的な指標となるブレント原油価格は一気に2%近く下げ、2年3カ月ぶりの安値を記録。アメリカの原油価格の指標とされるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)も先週、1バレル=85ドル台にまで下落した。
引き金となったのは、世界最大の産油国サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコが前日に、アジアとアメリカ向けの原油輸出価格を大幅に引き下げたこと。それまでアナリストは、サウジアラビアを含むOPEC(石油輸出国機構)加盟国が価格を下支えするために減産に踏み切るだろうと予測していた。
ところがサウジアラビアはあえて値下げに踏み切り、市場シェアを守る道を選んだ。これによって競争力の低い他の産油国が市場から締め出される恐れがあると、TD証券(トロント)のアナリスト、マイケル・ローウェンは指摘する。
シェールガス革命の「副作用」
ただしサウジアラビアの動きは価格下落の要因の1つにすぎない。その直前にはアメリカと中国の製造業の成長が予想を下回ると報じられ、原油需要が減速するとの見方が広がっていた。
9月末に発表されたアメリカの消費者信頼感指数も4カ月ぶりの低水準。アメリカ経済が回復すれば原油価格も上がるはずだが、「指標を見る限り、その方向には向かっていない」と、ローウェンは言う。
さらにヨーロッパでは景気低迷とデフレの影響で原油需要が減少し、中国のGDP成長率の見通しも下方修正が繰り返されている。9月には国際エネルギー機関(IEA)が、今年の石油需要の見通しを3カ月連続で引き下げた。
需要減による価格の下落に追い打ちをかけるのが、供給の過剰。その最大の要因は、アメリカのシェールガス革命にある。
米エネルギー情報局(EIA)によれば、シェールガス掘削ブームに乗ってアメリカの今年の原油生産量は過去30年ほどで最高となる日量850万バレルに達する見通しだという。
アメリカの生産量の急増は国際市場にも影響を及ぼす。アメリカでは05年に国内消費の60%を占めていた外国産原油が、16年には25%まで減る見込みだ。