ハラールの威力で盛況、ロシアのホテル
欧米の経済制裁で打撃を受けたロシア観光業界が、中東のイスラム教徒を呼び込むために変身中
祈りの文化 10月初旬、犠牲祭の礼拝を行うイスラム教徒(モスクワ) Sergei Karpukhin-Reuters
イスラム教の礼拝室を用意したり、コーランを客室に置いたり。モスクワのアエロスターホテルはイスラム教徒(ムスリム)の宿泊客を呼び込むために、特別なハラール・サービスを開始した。「ハラール」とはイスラム教の教義にのっとった商品やサービスのこと。アエロスターホテルが、ロシア内のイスラム教指導者から「ハラール」と認証されるには大規模な改装が必要だった。
「利用客の約70%が外国人で、その13%の約5000人がイスラム教国からの観光客やビジネス客だ。特にイランが多い」と、アエロスターホテルのマーケティング部長であるリュボフ・シヤンは言う。「ムスリムのお客様に、礼拝室や特別な料理を頼まれることが頻繁にあった」
今年2月にウクライナ問題が起こって西側の経済制裁を受けてから、ロシアの観光業界は大打撃を受けている。特に欧米からの観光客の落ち込みが大きく、アメリカとイギリスの観光客は推定30〜50%も減少しているという。
改装や準備の費用も元が取れた
このためロシアのホテルはアジアや中東からの観光客を狙わざるを得なくなった。これらの国々は欧米と違い、ウクライナに軍事介入したロシアに経済制裁を発動したりしていない。「全308室のうち20室に礼拝用マットや体を清めるためのたらい、聖地メッカの方角を示す方位磁石を用意した。シャンプーや石鹸もハラールと認証されたもので、動物性油やアルコールは含んでいない」と、シヤンは言う。
ハラール料理を作るためだけの独立したキッチンも設置した。ホテルのシェフ、ビタリー・ウカノフは「ここには豚肉やハムは一切ない。食器はすべて新品で、メインのキッチンで使われたものはない」と話す。
こうした準備や改装にはそれなりの費用が掛かったが、イラン人ビジネスマンの利用増により元が取れた。ハラールのサービス開始から最初の2週間で、マレーシアやイラン宿泊予約が殺到している。