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ヨーロッパ経済労働者の「圏内大移動」が欧州を救う
ヨーロッパで起こっている歴史的な移民現象は経済悪化の兆しではなく景気回復への最後の希望だ
国を捨てて 金融危機で破綻したアイルランドでは毎月3000人が国外に移住している Cathal McNaughton-Reuters
為替レートが国の実力に応じて変動しないユーロ圏では、経済破綻した国だからといって通貨が安くなり、それによって外から投資や仕事を呼び寄せられるということがない。だとすれば、人のほうから動くしかない。実際、それが今ヨーロッパで起こっていることだ。
スペインの王立エルカノ研究所の調査によると、30才未満の若者のうち約7割が国外へ移住することを考えていると言う。ポルトガルに至っては、過去2年間ですでに人口の2%が移住している。自国を捨て国外に出る人の数は2008年から倍増しているのだ。
極めつけはアイルランドかもしれない。毎月3000人以上が国外移住するという記録的な大移動が起こっているのだ。これほどの移民が出るのは、19世紀にアイルランドで起こった「ジャガイモ飢饉」以来。移住する人の中にはポーランドから来ていた出稼ぎ労働者が自国に戻っている数も含まれているが、多くはアイルランド人だ。
こうした移民の行き先はというと、お察しの通り経済が比較的好調なドイツが人気だ。ドイツの連邦統計局によると、昨年、約100万人もの移民がドイツへ押し寄せており、これは一昨年から13%の増加だ。特にスペイン、ギリシャ、ポルトガルそしてイタリアからの移民は12年と比較して5割近く増えているという。
だが、他の移民たちは職にありつくために、かつて先祖たちが移り住んで行った「伝統的な移民先」にも向かっているようだ。アイルランド人ならイギリスへ、スペイン人は南米へ、そしてイタリア人はアメリカへ、といった具合だ。
こんな社会現象の話を聞くと、欧州経済はますます悪くなっていると思うかもしれない。だが、EUの高官は「圏内移民」こそ、欧州が経済危機から脱却するカギになると言う。アメリカと比べて労働者の圏内移動が少ないことは、彼にとって黙って見過ごせない深刻な問題なのだ。
もちろん、そんなに手っ取り早く都合のいい政策などそうありはしない。たとえばポルトガル人が急にフィンランド語を話せるようになるわけもない。
だが、EUという単一の労働市場をもっとアピールするためにできることはある。例えば資格や、移住後も年金が移管される仕組みを整えるといったことが挙げられるだろう。
圏内移民には、為替変動による資本移動ほどの調整力はない。だが、しばしば制御不能になる為替相場と違い、政治的な努力は実りやすい。
© 2013, Slate