エネルギー新時代
液化石炭からトリウム原発まで「ポスト原発」の世界を変える技術
ドイツ脱原発の裏に世界制覇の皮算用
Nuclear Exit
ドイツ経済が縮む!友好国に衝撃を与えた脱原発を支えるのは、電力自由化と活力ある自然エネルギー産業だ
[2011年6月22日号掲載]
先週、主要国では初の脱原発法案を閣議決定したドイツ。2022年までに国内にある17基の原発をすべて停止し、自然エネルギーや天然ガスによる火力発電で代替する計画だ。チェコのクラウス大統領は「バカげた政策」と批判し、アメリカの政治アナリスト、デービッド・フラムは「(独首相の)メルケルは、欧州で一番重要な経済をどうする気だ」と嘆いた。
衝撃が走るのも無理はない。低コストで安定した電力供給源である原発を廃止すれば、電気料金が急騰するか停電するかで企業は国外に逃げ出し、経済が縮小してしまう恐れがある。ドイツ産業連盟(BDI)は4月末、脱原発を推進すればドイツの電力料金は2018年までに30%も上がると警告していた。
原発停止の第一弾は、福島第一原発と同型の原発で、3月から停止していた7基を含む8基。ドイツの原発が作る電力の4割を絶つ計算だ。一見自殺行為にみえるが、ドイツの脱原発政策は実は長期間のエネルギー安全保障戦略に基づいている。それが福島原発の事故で前倒しになったにすぎない。「計画を立てるための数字はすべて推定でしかない」と、今はベルリン自由大学で環境政策を研究するミランダ・シュラーズ教授は言う。「だが成功すれば世界のモデルになれる」
原子力発電は総発電量の22%を占めるので、その4割が停止することで直ちに失われる電力は総電力の約9%。もともとドイツでは電力の輸出超過分があるため、当面この程度のロスは何とか賄える。問題は、電力需要が最大になる冬をいかに乗り切るか。さらに残り9基の原発も順次止めながら、22年までの電力不足をどう回避するか。
ドイツ政府はつなぎとして天然ガスによる火力発電所に加え、石炭による火力発電所も少数ながら稼働させる見込みだ。化石燃料の中では最もクリーンな天然ガスはともかく、石炭火力まで計画に入れているのは、中小企業や金属、化学のような電力多消費型産業に低コストの電力を供給するための手当てではないかと、シュラーズは言う。
実はドイツの脱原発政策は90年から始まっている。そのカギとなる再生可能エネルギー産業は既に世界一の規模を誇り、今も発展は続いている。
電力自由化も追い風に
原動力は、再生可能エネルギーで発電された電力の固定価格全量買い取りを送電会社に義務付ける「固定価格買い取り制度(FIT)」。企業や家庭がソーラーパネルを取り付け発電すれば、初期投資を差し引いても年8〜10%の利益が得られる。
デンマークの風力発電機大手ベスタスのマルテ・マイヤーによれば、FITは技術革新も促す。送電会社の買い取り価格から同社に払われる補助金は最初が単位電力当たり5セントだとしても、それが5年後には2・5セントに減るとあらかじめ決まっている。「いやでもコスト削減や生産性向上に必死になる」と、マイヤーは言う。
電力の小売り自由化も進んでおり、「再生可能エネルギー100%」が売りの電力小売会社と、いくら高くてもそれを買う消費者がいる。こうした追い風を受け、ドイツの環境保護製品シェアは06年に世界一になった。
「ドイツは明らかに再生エネルギー市場を狙っている」と、立命館大学の大島堅一教授(環境経済学)は言う。「原子力産業はほとんど成長していないが、自然エネルギーは毎年20%以上成長しているからだ」
自然エネルギーの開発には戦略上の利点もある。風力や水力や太陽光で国内の電力需要のかなりの部分を賄えるようになれば、国外の原油や天然ガスへの依存度を減らすことができる。
もっとも、脱原発が正しい選択とは限らないと、コンサルティング会社ブーズ・アンド・カンパニーのエネルギー問題担当パウル・デュールローは言う。再生可能エネルギーだけで原発の不足分を賄うのはかなり難しい。「福島の原発よりはるかに新しく安全になった原発もメニューに加えるほうが理にかなっている」
それでも国民に反原発感情が浸透しつつある日本は、いやが応でも再生可能エネルギーに向き合わざるを得ない。ドイツの大胆な政策はかなり参考になるはずだ。
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