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金融マーケットは最強の政策決定者
ウォール街からギリシャまで、世界の重要問題の大半を解決するのは政治家ではなく市場。オバマ金融改革が実現してもそれは変わらない
市場に抗う ギリシャ国民は財政再建のための歳出削減策に激しく抗議(5月5日、アテネで) John Kolesidis-Reuters
ようやく、ワシントンがウォール街の「更生」に乗り出した----と思いたくなるのも分からないではない。アメリカ議会は強力な金融規制改革に向けて動き出し、証券取引委員会(SEC)と司法省が有力金融機関の不正行為摘発に本腰を入れ始めたように見える。
しかし、アメリカやその他の国の政府がどのような規制を導入したところで、政治指導者に何らかの行動を取らせるのが金融市場だという現実は変わらない。世界の重大問題の大半は、各国の政府ではなく、ニューヨークやロンドン、ドバイ、香港、東京などのトレーダーや投資家たちが解決する。
選挙で選ばれた指導者たちが厳しい決断に二の足を踏むなか、金融市場は痛みを伴う措置を強制する役割を担い続けるだろう。為替や株価、債券価格、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の価格などの変動を通じて表される金融市場の意向は、選挙の投票所で投じられる有権者の票より、政策の行方を大きく左右する。
ギリシャの状況を見れば、金融と投資が政治家を動かしていることがよく分かる。「ぐずぐずせずに、痛みを伴う具体的な救済案を打ち出せ」という意向を市場がはっきり突き付けるまで、ギリシャ政府もユーロ圏16カ国も、欧州委員会も欧州中央銀行(ECB)もIMF(国際通貨基金)も対応策を取れずにいた。市場の強烈な圧力を受けてようやく、各国政府や国際機関は重い腰を上げた。
英総選挙後に動いた数字の重み
5月6日に総選挙が行われたイギリスでは、深刻な財政赤字にどう対処するかを巡って3つの政党がライバルとの差別化に励んだ。しかし選挙が終った途端に、イギリスの通貨ポンドとロンドン市場の平均株価が下落し、債券金利と債務保証料が上昇した。こうした数字は首相の発言以上に、この先に待つ歳出削減と増税の規模を物語っている。
11月のアメリカ中間選挙後、金融市場はオバマ政権と議会に圧力を掛け、党派対立に明け暮れるワシントンの政界が自力ではできない行動を取らせようとするだろう。その行動とは、巨額の政府債務と財政赤字の解消に本腰を入れて取り組むことだ。
金融市場は、富裕層だけでなく国民全体を対象にした大幅な増税と、社会福祉、国防、各種の裁量的支出の徹底した予算削減をアメリカ政府に要求するだろう。金利を上昇させ、あるいはドルを下落させることによって、市場は政治家に言うことを聞かせるのだ。
成長著しいアジアの国のなかには、政府がインフレ圧力の高まりと不動産バブルの兆候に対処できていない国もある。景気の過熱にブレーキを掛けることに政府は躊躇するかもしれないが、市場の圧力により、もっと徹底した対策を取らざるを得なくなるだろう。
市場が政治を凌駕する理由
なぜ、政府ではなく市場が政策を決めるのか。
第1の理由は、金融市場の規模の大きさだ。コンサルティング大手マッキンゼーによると、世界の金融資産は、80年の12兆ドルに対し、08年は200兆ドル以上に拡大した。世界の総貿易高や全世界のGDP(国内総生産)総額をはるかに上回る伸び率だ。国境を越えた資本の移動も急激に増えている。その総額は90年の1兆1000万億ドルに対し、07年は11兆ドルに膨れ上がった。
第2の理由は、新しい規制が導入されても、抜け道だらけになる可能性が高いこと。国によってルールが違う可能性も高い。金融機関や投資家は、いくらでも規制を回避できるだろう。
第3の理由は、政治家が複雑問題を理解できない上に、目先の選挙を最優先させて行動せざるを得ないこと。それに比べて、市場は膨大な量の情報を取り込んで、迅速に強力な動きを取れる(ときに過剰反応する場合もあるが)。
金融改革が不要だと言うつもりはない。市場をもっとうまく機能させ、市場の透明性を高め、市場の暴走に歯止めを掛けるための規制は必要だ。それに、市場が政策を支配するのが私たちにとって幸せなことだと言うつもりもない。しかし、市場がそういう力を持ち続けることは知っておくべきだ。