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テクノロジー次の野望は超高速ネット
アメリカのネット接続の通信速度を200倍以上に──グーグルの新サービスがもたらす「毎秒1ギガビット」の世界とは
グーグルがまた新たな実験に乗り出そうとしている。
同社は2月10日、高速インターネット接続サービスをアメリカの複数の都市で提供する計画を発表。試験的なサービスなので利用できる人は5万〜50万人と少ないが、グーグルは電話会社やケーブル会社が牛耳ってきたネット接続市場に新風を吹き込もうとしている。
ネットブームが巻き起こった90年代後半に敷設されたまま、使われていなかった光ファイバーケーブルをグーグルが買い集めていたのは周知の事実だが、提供する予定の接続サービスの通信速度には驚かされた。毎秒1ギガビット(ギガは10億)といえば、多くのアメリカ人が利用している通信速度の200倍以上だ。
接続スピードの向上にはグーグルの未来が懸かっている。今のところ同社のビジネスは他社のネット回線に依存している。しかも、回線を提供する企業は技術革新への関心が薄い。特にアメリカの通信速度の遅さはグーグルの足かせになっている。
グーグルは以前から、アメリカのネット接続の状況改善に向けて努力してきた。例えば08年には、無線ネット接続を普及させるためにテレビ周波数帯域の未使用部分を開放すべきだと政府に提言している。
まずハイテク拠点で足場
しかし現実には、ネット接続の改善は遅々として進んでいない。自治体主導の無線ネット接続システムの整備は、多くの都市で頓挫してしまった。
グーグルが自ら高速ネット接続サービスに乗り出すのは、飛行機の座席で使う枕のメーカーが、売り上げ増を狙って航空会社を始めるようなもの。既存の航空会社のサービス向上を促すことで空の旅をする人が増えれば、枕の売上高も伸びるという発想だ。
遠回りな方法だが、うまくいくかもしれない。グーグルがこのプロジェクトを成功させるにはネット接続サービスを提供する都市の選定が重要になる。
ハイテクの拠点として名高く、多くの住民が高速ネット接続を求めている都市──例えばサンフランシスコやボストンで電話会社やケーブル会社から顧客を奪うことができれば、通信業界のサービス向上を促せるだろう。
人々が「毎秒1ギガビット」に秘められた可能性の大きさを知れば、スピードの遅いネット接続に退場を迫る声が高まるはずだ。
高速ネット接続には既存のビジネスモデルを覆す力がある。利用者が増えれば、すべてのデータをネット上のサーバーに保存するのが当たり前になる。
しかし、そうなるまでには少し時間がかかるだろう。米コンテンツ配信事業大手アカマイの調査によれば、アメリカのネット回線の平均通信速度は毎秒3・9メガビット(メガは100万)で世界18位。1位の韓国は毎秒14・6メガビットだ。韓国との差は今も開きつつある。アカマイによると、毎秒25メガビット以上の通信速度でネットを利用している人は、韓国では全体の10%近くに達するが、アメリカではわずか1%だ。
理由は明快。アメリカのネット接続市場に競争が足りないからだ。ネット接続サービスを提供しているのは、地元のケーブル会社か電話会社だけというケースがほとんど。しかも多くの場合、実際には選択肢が1つしかない。
他社より低料金にできる
グーグルならこうした状況を変えられるかもしれない。同社には大規模な高速ネットワークを低コストで運営するノウハウがある。 グーグルの実験的な接続サービスはこれまでの常識を覆すような低料金になる可能性がある。安価な高速ネット接続を待ち望んでいる人には願ってもないことだろう。
高速ネット接続を利用すれば、高画質の映画も数分でダウンロードできるだろう。高性能カメラとプロジェクターを使って、臨場感あふれるテレビ会議を行うことも可能だ。遠隔操作による外科手術も普及するかもしれない。
この程度のことは簡単に想像できる。だがインターネットは、私たちが予想もしなかった素晴らしい変化を次々と社会にもたらしてきた。ネット接続がより高速になれば、現時点では想像もできないことが可能になるだろう。
高速ネット接続を普及させようというグーグルの試みが成功することを祈りたい。
(Slate.com特約)
[2010年3月17日号掲載]