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独自携帯の発売は業界への挑戦状
米グーグルが携帯電話用のOS(基本ソフト)「アンドロイド」を発表したのは07年のこと。提携した多くのメーカーが、これでアップルのiPhoneに対抗できる端末を開発できると期待した。
昨年後半、グーグルが自社で携帯電話を製造するのではないかという噂が流れ始めた。だがグーグルの携帯電話部門責任者アンディー・ルービンは10月、そんなことは絶対にしないと断言した。アンドロイドを搭載するメーカー各社と競合することになるからだ。
ところが1月5日、グーグルはまさに提携各社と競合する事業を発表した。独自に開発した高機能携帯「ネクサス・ワン」の発売だ。製造は台湾のメーカーHTCに委託し、グーグルが同日開設したオンラインストアで販売を始めた。ネクサス・ワンの商標は、HTCではなくグーグルが所有する。
この新型携帯は、従来のアンドロイドを大幅に改良した新バージョンのOSを搭載。画面はiPhoneよりも優れている。グーグルはスマートフォンを超える「スーパーフォン」と呼ぶ。従来のOSを搭載する各社の携帯は事実上「旧式」になってしまった。
ネクサス・ワンは特定の通信会社と契約せず単体でも購入でき、価格は530ドル。これならユーザーは通信会社を自由に選べるが、ドイツのTモバイルとの通信契約付きなら180ドルで買える。今春には、英ボーダフォンなどでも契約できるようになる予定だ。
5日の記者会見で、携帯電話を作らないと断言した先の発言について問われたルービンは、こう答えた。「私は非常に正確に話す。グーグルがハードウエアを作ることはないと言ったのだ」。確かにグーグルは「製造」はしない。ルービンは嘘をついていたのではなく、正確に話していただけらしい。
ともあれ、グーグルは携帯電話端末の市場に参入した。提携するメーカー各社だけでなく、通信各社とも張り合うことになる。端末を販売して長期契約で利用者を縛る通信会社のビジネスモデルを破壊しようとしているのだ。消費者は喜ぶだろうが、通信会社にとってはたまったものではない。
グーグルはかつてのマイクロソフトのようになった。他社と組んでその手法を学び、やがてそのビジネスを奪い始める。もちろん笑顔を絶やさず、「私たちは世界を変えたいただのエンジニア」と猫をかぶる。それでもグーグルを止めることは誰にもできない。
[2010年1月20日号掲載]