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2011.12.26

TPPアメリカの本音と思惑

2011年12月26日(月)15時07分

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 意外かもしれないが、米政府が世界で最も熱心に推進している一方で、アメリカ国内ではTPPはまったくと言っていいほど話題に上っていない。

 アメリカを含む9カ国が既に「次世代」の通商協定に向けた大枠の合意に達しており、12年末までの最終合意成立を目指す──11月12日、バラク・オバマ大統領がホノルルでそう表明するまで、アメリカ人の大半は「TPP」という言葉すら聞いたことがなかった。

 国内的な知名度が皆無な一方で、この10年間対テロ戦争と中東情勢に目を奪われてアジアや中南米で出遅れた米政府は、いまさらながらこの地域に焦点を移している。アメリカ政府にとって、TPP(環太平洋経済連携協定)は失地回復のための足掛かりの1つだ。その戦略は、中国を「外圧」で変えようとする側面も見え隠れするほど、野心的だ。

 一方で、国力低下にあえぐアメリカがアジア市場に活路を求めている以上、交渉での立場は若干弱くなる。米政府は自国の要求をかつてのようにごり押しできるのか。そして、国内の反対や参加国との隔たりを乗り越えられるのか──。

 米政府がTPP計画に踏み出したのは09年12月。このとき、ロン・カーク通商代表が議会の指導者に書簡を送り、「これまで以上に雇用を重視し、アメリカの競争力を強化し、通商協定の恩恵がすべての国民に行き渡るようにする」と表明していた。

 それなのになぜ、これまでTPPはアメリカ国内で注目されてこなかったのか。

 1つには、交渉参加国が貿易高の小さな国ばかりだったからだ(日本が参加すれば事情は大きく変わる)。アメリカ以外の8カ国──ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール、オーストラリア、マレーシア、ペルー、ベトナム──を合わせても、アメリカの貿易高の5〜6%程度でしかない。

 これでは、議会や国民に対して、TPPでレベルの高い合意に達することがいかに重要かと納得させるのは難しい。もっとも、米政府としてはTPPを土台に、日本やカナダ、韓国、ブラジル、さらに将来的には中国などの主要貿易国も参加する大掛かりな通商協定を打ち立てたいと考えている。

「WTO2・0」への道?

 アメリカでTPPの影が薄い理由のもう1つは、通商協定そのものが一般的に不人気だという点にある。労働組合や世論全般、そしてかなりの議員が通商協定に拒絶反応を示しやすい。

 ジョージ・W・ブッシュ前大統領時代にアメリカがコロンビア、パナマ、韓国とそれぞれ2国間で署名した3つの自由貿易協定(FTA)は最近になってようやく議会で批准された。自動車産業の労働組合や議員の反発がそれだけ強かったのだ。

 オープンな通商協定を結べば双方の国に大きな経済的メリットがあると、ブッシュもビル・クリントン元大統領も国民に納得させようとした。相手国にアメリカ市場を開放し、それと引き換えにアメリカ企業のために相手国の市場を開放させる──そうすれば、輸入品の価格が安くなる上、輸出産業に雇用が創出される、という筋書きだった。

 そのもくろみは大きく外れた。問題は、近年アメリカの雇用状況が悪化していることだ。製造業を中心に、中流層の雇用が安定しない。特に08年のリーマン・ショック以降、失業率は10%近くまで上昇し、その後も9%台で高止まりしている。「上位1%」の高所得層がアメリカ全体の所得の4分の1を得るような社会になった。4分の1という数字は、25年前の約2倍だ。

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