最新記事

新しいアニメの神話作りをめざして

アップルの興亡

経営難、追放と復活、iMacとiPad
「最もクールな企業」誕生の秘密

2010.05.31

ニューストピックス

新しいアニメの神話作りをめざして

ピクサー社長として画期的なCGアニメ『トイ・ストーリー』を大ヒットさせ、ハリウッドで新たな夢をふくらませるアップル創業者

2010年5月31日(月)12時12分
スティーブン・リービー、ケイティー・ハフナー

 最近のスティーブ・ジョブズ(42)は、昔とは違う。

 彼の会社が作ったアニメ映画『トイ・ストーリー』の登場人物に例えれば、以前の彼は宇宙レンジャーのバズ・ライトイヤー。自信たっぷりで親分肌、悪くいえば横柄な感じだった。

 だが、古巣アップルコンピュータへの復帰も果たした今のジョブズは、バズの相棒でカウボーイのウッディを思わせる。相変わらず目立ちたがり屋だが、尊敬されるリーダーに変身したようなのだ。

 シリコンバレーの強引な勝負師から、ハリウッドを相手にする度量の大きな経営者に変身しつつあるジョブズ。みずから率いてきたコンピュータ会社ネクストをアップルに約4億ドルで売却し、今はアニメ映画『トイ・ストーリー』で驚異的な成功を収めたコンピュータグラフィックス(CG)製作会社ピクサーに入れ込んでいる。

 今の目標は、人々の記憶に残る名作を続々と生み出すこと。「その昔ウォルト・ディズニーがしていたこと」だ。大それた夢と笑うなかれ。2月末、ピクサーとディズニーは10年間で5作品を共同製作するという画期的な提携関係を結んでいるのだ。

 これにはもちろん、ビデオやCD‐ROM化の権利、あらゆるキャラクター商品のライセンス契約も含まれる。以前の両社の契約は、ディズニー側に圧倒的に有利だった。最終的に400億ドルと予想される『トイ・ストーリー』の収益のうち、ピクサーの取り分は12・5%にすぎない。

 しかし、これからは半分が転がり込んでくる。ピクサーはすかさず、『トイ・ストーリー』の続編(ビデオのみ)を新しい契約のもとで製作すると発表した。

 あのディズニー帝国が、第三者とこんなに「対等」な契約を結ぶのは異例のこと。『トイ・ストーリー』の大ヒットを、ディズニーが高く買っている証拠だ。

 アニメ映画は、一度当たれば大きい。興行収入だけでなく、登場するキャラクターが玩具や書籍、テレビ番組、さまざまなグッズに顔を出すたびに利益が転がり込む。しかも生身の俳優と違って、アニメのキャラクターには高いギャラを払う必要もない。

アップル時代とは違う

 だから、どの映画会社もアニメでのヒットをねらっている。「でも、[『トイ・ストーリー』が公開された]1995年12月まで誰も成功できなかった」と、ジョブズは断言する。

 このところ『トイ・ストーリー』以外にめぼしいヒット作に恵まれていないディズニーにとって、ピクサーは「金の卵」だ。だからこそ異例の対等な契約を結んだのだ。

 もっとも、ディズニーが本当に欲しかったのはジョブズではなく、ジョン・ラセター(40)だ。この男こそアニメ界の新星、『トイ・ストーリー』で職人芸的なCGの世界とハリウッド流の商業主義の橋渡しをしてアカデミー賞監督賞に輝いた人物である。

 83年、ラセターはジョージ・ルーカス率いるルーカスフィルムに入社。周囲は人間の動きをCGで正確にシミュレートすることに没頭していたが、ラセターは「ミッキー・マウスのような魅力あるキャラクターを作り出そう」と提言したという。「いくらコンピュータをいじっても、アニメはできない。ぼくらはストーリーとキャラクターを創造するんだ」と、ラセターは言う。

「ラセターは天才だ」と、ディズニーのアニメ部門を率いるピーター・シュナイダーは言う。「彼は、私たちとは違う目で世界を見る。愛すべきキャラクターやおかしな物語を生み出す才能にあふれていて、自分もそれを楽しんでいる」

 ピクサーの成功が彼に負うところが大きいことは、ジョブズも認めている。だがラセターがライバル会社にくら替えするおそれは、まずない。ラセター自身、ピクサー株を大量に所有しているからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

伊藤忠、北米で人気キャラ「おぱんちゅうさぎ」のライ

ビジネス

午後3時のドルは144円前半へ下落、豪中銀ハト派傾

ビジネス

中国最優遇貸出金利、昨年10月以来の引き下げ 国有

ビジネス

SOMPOHD、発行済み株式の3.53%・1050
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国は?
  • 4
    実は別種だった...ユカタンで見つかった「新種ワニ」…
  • 5
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 6
    【裏切りの結婚式前夜】ハワイにひとりで飛んだ花嫁.…
  • 7
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 8
    日本人女性の「更年期症状」が軽いのはなぜか?...専…
  • 9
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 10
    飛行機内の客に「マナーを守れ!」と動画まで撮影し…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 7
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 10
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中