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2009.12.15

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タリバン8年間の真実

2009年12月15日(火)12時06分
サミ・ユサフザイ(イスラマバード支局)、ロン・モロー(イスラマバード支局長)

第4章 焦る米軍に長期戦を挑む

マシフディン (ヌリスタン州の村バルグ・マタル付近の)山頂にある米軍基地は邪魔だった。あそこの米軍はわれわれの電話や無線を傍受し、アフガン人のスパイと一緒に情報工作を行っていた。だから(今年6月)、われわれは慎重に攻撃計画を練り始めた。

 参加者を募ると、みんなが名乗り出た。いつものように医療班を組織し、負傷者を運ぶためのロバや担架もそろえた。だが武器や弾丸、火薬や通信装置を分類したところで、激しい雨が降り始めた。米軍には険しい岩山を登り降りできる頑丈なブーツや山登り用の装具がある。しかし、われわれのは革のサンダルを履いているため滑りやすい。そのため攻撃を2週間延期せざるを得なかった。

ハーン 米軍相手に戦うのは容易ではない。07年夏のある夜、私の司令官だったムラー・ヌールラーが米軍に自宅を急襲されて殺された。米軍は全部で司令官12人を殺害。奇襲はすべて深夜から夜明けの間に行われた。われわれは米軍が携帯電話の盗聴やスパイからの電話連絡で居場所を特定していることを突き止めた。

 そこでわれわれは、午後6時から午前7時までの通信をすべて止めるよう携帯会社に命じた。今でもヘリや爆撃機は心配だが、米軍の奇襲は減っている。情報収集能力が落ちたのだろう。米軍に協力する裏切り者も少なくなった。逆にわれわれの仲間は米軍基地を24時間監視し、動きを報告してくれる。以前は、道路に設置した爆弾で米軍の車両を攻撃した後、退却するだけだった。今はIEDを爆発させた後、AK47とRPGで追い打ちをかける。

 現在のIEDは破壊力が大きく、ほとんどがアルミニウムの破片と交ぜて使う硝酸アンモニウム爆弾だ。われわれの下には、(肥料用の)硝酸アンモニウムや火薬、ヒューズ、起爆装置やリモコンが定期的に届く。IEDの作り方は、今では先生役だったアラブ人よりうまくなったと思う。

■証言者6人のプロフィール

ハッカニ タリバンの司令官たちが捕らえられたり殺害されたのは認める。それでもわれわれの攻撃は止まらなかったし、これからも止まらない。ジハードは個々の司令官や戦士の命よりも重要だ。われわれはもう外国人やISI(パキスタンの軍統合情報局)、アルカイダに頼ってはいない。

 個人的には、アメリカはアルカイダの戦闘能力を誇張していると思う。私の知る限り、アルカイダは弱く、人数も少ない。われわれが多くの地域を支配するようになった今、協力者の外国人すべてに厳格な戦闘規則を守らせるべきだ。もうこれ以上、ラクダども(アルカイダ)を手綱や命令なしにうろつかせておくべきではない。

マシフディン われわれは金曜日の夕方、礼拝後に行動を開始し、闇に紛れて山の上に戦士を送り込んだ。彼らはゆっくりと、着実に山を登った。暖を取ったり調理するための火は一切使わず、尾根で一晩過ごした。米軍がいつもわずかな音に聞き耳を立てていることを学んだからだ。

 私は日が昇る前に攻撃を命じた。まず、周囲の丘の上から追撃砲とロケット砲で米軍基地に攻撃を開始。夜明けまでに、基地の外壁に沿って進むところまで来た。アフガニスタン政府軍の兵士を何人も殺した。守衛塔にいた米兵1人にも、弾が命中したかもしれない。

 追撃砲とRPGが防護の外壁をほとんど破壊した。われわれは基地の内部に向かって投降するよう叫んだが、誰も出てこなかった。そこで基地の片側に火を付け、反対側に回って待った。煙が上がり、何人かの米兵は基地から逃げ出すしかなかった。この攻撃の最中、仲間を1人も失わずに済んだ。そのとき米軍のヘリが到着して、ロケット弾や機銃で攻撃してきた。戦いは日暮れまで続き、12人のタリバン兵が殉教した。

 米軍の軍事力は、われわれとは比べものにならない。だが、こっちは岩や山の陰に隠れて身を守る方法を学んだ。あらゆる最新技術で武装した米軍を退却させ、あの基地を手に入れたのだ(米軍はこの基地を3日後に奪回し、後に放棄した)。

ユーナス 最近、弟の1人が結婚したとき母が私に言った。「あなたはいつ結婚するつもり?」。私はこう答えた。タリバンがカブールを取り戻し、イスラム首長国を再建できた日に結婚する、と。遠い先の話かもしれないが、その日が来ることは分かっている。

ハーン アメリカ人は、タリバンを買収してジハードをやめさせるという案を口にしているが、ばかげた話だ。私は1年前に婚約したが、花嫁の父親に渡す1500ドルの持参金も、500ドルの結婚式の費用もなかった。金があれば、すぐに結婚していただろう。ここの人々は、娘や姉妹をタリバンに嫁がせることを恐れていない。もし新郎が結婚式の1週間後に殺されたとしても、彼らはジハードに協力できて幸せだと思う。

 タリバンとして戦うのは容易ではない。家族から離れ、いつ殺されてもおかしくないと思いながら生活する----炎の上着を着ているようなものだ。米軍に捕まれば、バグラムやグアンタナモの犬小屋(収容所)に送られる。負傷しても迅速な治療は期待できない。金もない。それでも新入りの若者たちは、自らこの炎の上着を身にまとう。その様子を見て、私はこの戦いに負けることはないと確信した。

モハンマド どれほど長い時間がかかろうと、勝利の日まで戦い続ける。米軍には武器があるが、われわれには長く厳しいジハードを戦い抜く覚悟がある。われわれはここで生まれた。骨を埋めるのもこの場所だ。どこにも行くつもりはない。

マシフディン (アフガニスタン)南部のタリバン兵は(バラク・)オバマ(米大統領)の新しい「十字軍」に対応するため、小規模な戦術的撤退を何度か繰り返した後、IEDで反撃に出ている。しかし、(北東部の)クナル州やヌリスタン州にいるわれわれは幸運だ。山や森がわれわれを守り、木や岩がかくまってくれる。ここでは米軍の力も限られる。

 2、3年前、この地域にいる米兵はまるで休日を過ごしているかのように行動していた。自分たちの姿をビデオや写真に収め、山中の散策を楽しんでいた。外でゲームもしていた。そんな日々はもう過去のことだ。今の彼らは、1日中引き金に指を掛けていなければならない。

アフンドザダ 時々、夢じゃないかと思うことがある。かつては、現在のような状況を実現する頃には、私のあごひげは白くなっているだろうと思っていた。だが、私のひげはまだ黒い。われわれは日々強くなっている。  

[2009年10月21日号掲載]

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