コラム

ネタニヤフと並ぶ「もう1人のリーダー」...混迷パレスチナのアッバス議長に市民が求めるものとは

2024年05月14日(火)14時30分

もちろんパレスチナの選挙は一筋縄ではいかない。イスラエルでは容易に行われる選挙も、パレスチナ自身の一存では決められない。占領下にあり、パレスチナが将来の国家の首都とする東エルサレムの扱いは極めてセンシティブだ。

公に選挙を認めれば、東エルサレムに対するパレスチナの政治的な権利を認めかねず、イスラエルは納得しない。かといって、東エルサレムで実施しなければ、イスラエルの支配をパレスチナが認めることになる。

また、仮に民主的に選挙が行われても、ハマスの勝利はイスラエルや欧米各国には好ましくない。そもそもパレスチナの分断は06年の評議会選挙で勝利したハマスを欧米側が拒否したことに端を発する。

当時のイギリス首相だったトニー・ブレアは後年、「ハマスをもっと対話に巻き込むべきだった」と述べ、その過ちを認めている。

国際社会は今、口をそろえて「二国家解決」を訴える。二国家解決となれば、前途は間違いなく多難だ。また、現実的な案としてパレスチナ人の2割超が、イスラエルに吸収される「一国家解決」を望んでいて、この選択肢もある。

パレスチナがこの歴史的な戦争の後に何を望み、どのリーダーの下で再出発するのか。和平問題を解決したいのであれば、われわれはまず市民の声に真摯に耳を傾けなければならない。

プロフィール

曽我太一

ジャーナリスト。元NHK記者。東京外国語大学大学院修了後、NHK入局。札幌放送局などを経て、報道局国際部で移民・難民政策、欧州情勢などを担当し、2020年からエルサレム支局長として和平問題やテック業界を取材。ロシア・ウクライナ戦争では現地入りした。2023年末よりフリーランスに。エルサレム在住。

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