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コラム
風刺画で読み解く「超大国」の現実 Superpower Satire
わが大統領トランプの「滅私奉敵」精神(パックン)
(c)2018 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE
<中国との貿易戦争でも、北朝鮮の非核化でも、ロシアの米大統領選介入疑惑でも、トランプはいつもアメリカではなく「敵国」に尽くしている!>
ジョン・F・ケネディ元米大統領は就任演説で「Ask not what your country can do for you. Ask what you can do for your country(国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを問いなさい)」と、私利私欲ではなく滅私奉公の精神を国民に求めた。
風刺画ではドナルド・トランプ大統領が「国」を「敵(enemies)」に置き換えている。無理やり四字熟語で表すなら「滅私奉敵」の精神だ。
実際、トランプはアメリカの「敵国」に尽くしている。
中国には貿易問題で厳しく臨んでいると思われるが、同時に日本などの同盟国に対しても鉄鋼やアルミの輸入に追加関税をかけている。中国は孤立するどころかむしろ、「敵の敵は味方」という効果でこの「貿易戦争」で仲間を増やしている。それにトランプは、イランと北朝鮮への禁輸措置に違反したとして制裁を加えた中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)の救済に尽力すると約束した。わが国の制裁から敵国の雇用を守る!
史上初の米朝首脳会談を通して、北朝鮮を「ならず者国家」からアメリカと並ぶ「通常国」に変身させた。核を保有したままでも金政権を承認・保証し、制裁緩和、国際社会復帰への道を開いた。しかも、自発的に米韓合同軍事演習を中止した。わが国の脅威から敵国の独裁政権を守る!
実は、演習の中止はロシアのウラジーミル・プーチン大統領の発案だったようだが、トランプがプーチンを喜ばせたのはこれが初めてではない。米大統領選中には「わが国の大統領(オバマ)よりずっと指導者らしい」と褒め、共和党のマニフェストから反ロシアの条項を省いた。大統領に就任するとロシア大使をホワイトハウスに招待し、機密情報を漏らした。クリミア半島併合後の対ロシア経済制裁を緩和しようとし、ロシアのG7復帰も呼び掛けた。そして先日、米大統領選介入疑惑でロシアの情報部員12人が起訴された直後の米ロ首脳会談の場でロシアをかばった。わが国の司法から敵国のスパイを守る!
これにはさすがにアメリカ国民は怒った。デモが起き、保守派のテレビでさえ大統領を批判した。それを受けてトランプ政権は......「秋にプーチンをホワイトハウスに招く」と発表した!
敵を守るこんな大統領から、誰がわが国を守ってくれる?
【ポイント】
TRUMP LEGITIMIZES DESPOTS
トランプが独裁者を正当化
I MISS JFK!
ジョン・F・ケネディが懐かしい!
<本誌2018年7月31日号掲載>
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