コラム

トリクルダウンは嘘だった

2017年11月28日(火)18時15分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

©2017 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE

<超高所得者層に減税の恩恵が集中する見込みの共和党税制改正案。高所得者を優遇すれば経済全体が潤うという「トリクルダウン」は、みんな嘘だとわかっているはずなのに......>

「クリスマスの前の晩」という詩は200年近く前からアメリカで愛され、親が子によく読んであげるもの。風刺画では題名が「税制改正の前の晩」になり、サンタクロースの最後のセリフ「みんなにメリー・クリスマス!」が「みんなに豊かさを!(prosperity for all)」に変わっている。共和党の象さんが懸命に読み聞かせしているが、中流層の子供(?)はお話を疑っているようだ。

それもそうだ。改正案の主人公である Trickle-down Economics (滴り落ちる経済)は嘘だと誰もが分かっている。「高所得者の税率を下げると彼らの消費と投資が増し、その経済効果で労働階級も得し、税収も増える」という考え方だが、もともとはコメディアンでユーモア作家のウィル・ロジャーズがコラムで高所得者優遇を皮肉った表現だ。

この表現が生まれたのが1932年。ネタとしても笑えるような政策だが、それから何度も実際に試され、そのたびにそんな夢のような効果はやはり夢だと分かった。過去100年のデータから見て、最高税率とGDP成長率はほぼ比例関係にある。最高税率が75%を超えるときこそ成長率が高い。サンタクロースを信じても、滴り落ちる経済は信じられないはずだ。

でも、共和党はいまだに信じているらしい。政治情報サイト、ポリティファクトによると、今回の税制改正案では、減税額の恩恵の80%がトップ1%の超高所得者に集中する見込みだ。彼らは平均で年間23万ドル以上も得する計算になる。改正案は、高所得者への素敵なクリスマスプレゼントになる。

一方、中流層と貧困層は大ダメージを食らいそう。まず、年収7万5000ドル以下の家庭は長期的に増税になる。その上、高齢者や障害者向けの医療保険メディケアも、貧困層向けのメディケイドも予算削減される。おまけに1300万人は医療保険を失うという。こんな弱い者いじめのような法案を出した悪い子に、サンタさんはプレゼントをくれないだろう。

いや、もらえそうだ。フォーチュン誌の分析では、税制改正によってトランプ政権の閣僚らは合計15億ドルも減税され、トランプ自身の実質税率が4%以下になり、毎年数百万ドルの減税になりそうだとか。こんな話、僕も信じられない!

【ポイント】
I HEARD HIM EXCLAIM AS HE DROVE OUT OF SIGHT..."PROSPERITY FOR ALL AND TO ALL A GOOD NIGHT!"

そりが夜空に消える前に、彼の声が聞こえた。「みんなに豊かさを! ぐっすりおやすみ!」

I'M TOO OLD TO BELIEVE IN TRICKLE-DOWN ECONOMICS!
トリクルダウンを信じるほど子供じゃないからね!

<本誌2017年12月5日最新号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!

気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを

ウイークデーの朝にお届けします。

ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story