コラム

わいせつ疑惑を徹底擁護する、アメリカの深刻な党派対立

2017年11月30日(木)11時10分

ムーアを支持する女性たちがアラバマ州議会前に集結 Drew Angerer/GETTY IMAGES

<アラバマ州上院補選の共和党候補に少女への猥褻疑惑が浮上――それでも民主党員でなければいい?>

幼い息子と妻が居心地悪そうに見守るなか、トランプ大統領は、12月12日にアラバマ州で実施される上院補欠選挙に臨む共和党候補ロイ・ムーアへの全面的な支持を表明した。

ムーアは、約40年前に複数の少女に猥褻(わいせつ)行為を行ったと告発されており、疑惑を裏付ける証拠も続々と浮上している。しかし、トランプは、「本人は完全に否定している!」と主張した。

少女への猥褻疑惑がある人物でも、民主党員よりは好ましいと考えているようだ。「はっきり言えることが1つある。リベラル派、民主党員は要らないということだ......犯罪、国境管理、軍、銃保持の権利について悪い政策を主張する人間は必要ない」と、トランプは言い切った。

共和党指導部はムーアに選挙戦からの撤退を求めているが、共和党支持者の中には、同時期に女性への猥褻疑惑が浮上した民主党のアル・フランケン上院議員を声高に批判する一方、極めてアクロバチックな論理でムーアを擁護する人も多い。

ある共和党政治家は、イエス・キリストも年齢差の大きな夫婦の間に生まれたと述べ、ムーアの少女好きを正当化した。地元のキリスト教聖職者は、「純粋さ」を望むムーアが少女に関心を示したのはまっとうな行動だと主張した。

ムーアのスキャンダルをめぐる現在の状況ほど、アメリカの党派対立が醜悪な様相を呈したことは、これまでなかった。アラバマ州知事のケイ・アイビー(共和党)は、被害を告発している女性たちの主張を疑う理由はないが、ムーアの行動より、共和党の政策のほうがはるかに重要だと言った。

主流メディアは「腐敗」

疑惑を指摘されても戦闘モード全開のムーアの態度は、昨年の大統領選でのトランプを思い出させる。トランプは、再三にわたりセクハラを指摘されても、告発者を嘘つき呼ばわりし、「インチキ」なメディアが魔女狩りをしていると非難し続けた。

セクハラや性犯罪の被害に遭った女性たちが声を上げる「#MeToo(私も)」キャンペーンが広がりを見せるなか、それをきっかけに党派間の亀裂は一層深まり、既成メディアに対する人々の不信感の強さが浮き彫りになった。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story