コラム

G20議長国・中国に問われる世界市場混乱の説明責任

2016年02月24日(水)17時00分

上海G20で、市場混乱の元凶・中国はどこまで手の内を明らかにするのか AlexLMX-iStock.

 2月26日、27日に中国・上海でG20財務相・中央銀行総裁会議が開催されます。世界経済が混乱するなか、各国が金融・財政政策を動員して、如何にして経済の安定化を図るかが焦点です。

 昨年夏以降のグローバルマーケットの混乱の震源地は中国でした。景気減速に歯止めが掛からないなか、政策対応の拙さや説明不足、不透明性に起因する株式・為替市場の動揺が続き、過度な中国経済悲観論が台頭しました。2016年2月20日には、証券行政トップである中国証券監督管理委員会(CSRC)主席が更迭されたことも明らかになりました。

 こうした背景を受け、2月26日には周小川・人民銀行総裁が記者会見をする予定です。総裁に就任して14年目に入り「ミスター人民元」とも称される周氏が、人民元にまつわる疑問や不安を払拭できるのか、世界が注目しています。

 人民元に何が起きているのでしょうか?

市場との対話は「不足」ではなくほぼ「なし」

 第一に、人民元の国際化、金融・資本市場の対外開放の進展により、かつては盤石であった中国人民銀行による人民元レートの制御能力が弱まりつつあります。人民元国際化について、中国が人民元建て貿易決済を認めたのは2009年7月からと日は浅いのですが、その後のスピード感には目を見張るものがあります。今や中国は世界最大の貿易大国であり、2015年には中国のモノの貿易に占める人民元決済の割合は1/4、金額にすると116兆円に達しました。

【参考記事】国際通貨って何?中国はまだ猛勉強中

 中国人民銀行は2015年末時点で29カ国・地域の中央銀行・通貨当局との間で2兆9,822億元(約54兆円)の通貨スワップ協定を締結しています。一般的な通貨スワップ協定は、通貨危機や外貨不足の際に、一定のレートで相手国通貨などを融通し合う通貨安定のための協定です。いわば、短期流動性危機への対応が目的ですが、中国が締結した通貨スワップ協定はそれだけでなく、貿易・直接投資の人民元決済や人民元の外貨準備への採用など、人民元の国際化を強く意識している点に最大の特徴があります。

 同時にオフショア人民元の運用手段の拡充も進められ、香港、英国等での人民元建て債券の発行の他、域外で保有される人民元を中国に持ち込んで金融・資本市場に投資するRQFII制度などが推進されています。

 人民元は急速に世界に拡散しているのです。当然、各地に創設されたオフショア市場では、中国人民銀行のコントロールは及びにくくなります。

【参考記事】人民元がIMF主要通貨になったら?

 第二に、中国人民銀行はマーケットとの対話が不足している、との批判がありますが、足りないのではなく、これまで「対話をしたことがなかった」というのが実情でしょう。政策対応の拙さ、説明不足、あるいは不透明性が、マーケット参加者に不安や不信を与え、ひいてはグローバルマーケットでの中国に対する疑心暗鬼を増長させるのです。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税巡る市場の懸念後退 猶予期間設定で発動

ビジネス

米経済に「スタグフレーション」リスク=セントルイス

ビジネス

金、今年10度目の最高値更新 貿易戦争への懸念で安

ビジネス

アトランタ連銀総裁、年内0.5%利下げ予想 広範な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story