コラム

トランプ時代のアメリカでは、炭酸飲料の香料まで訴訟の標的に

2018年10月09日(火)19時20分

原告が敵視している「人工合成」についていえば、近年のリナロールは、アセチレンなどから生成されることが多く、大量生産がされてきました。では、人工香料とすべきなのかというと、天然由来のリナロールと同じ分子構造であることから、特に両者を区別する必要もないし、人工合成であると表示する必要もないというのが、国際的な慣行になっています。

ABCテレビの報道を受けて、食品安全の専門家である南カリフォルニア大学薬学部のロジャー・クレメンス講師は、「リナロールが危険だという指摘はないので、この飲料だけでなく、安心して摂取してください」と述べていました。その上で「リナロールが問題になるのなら、自然由来のリナロールの入っているオレンジジュースや、ライム果汁もダメということになります」とも指摘していました。

この種の問題ですが、アメリカというのは比較的「安全」と「安心」の乖離の少ない、つまり科学的な結論をストレートに受け入れる社会だと思われてきました。例えば、遺伝子組換えの植物に関しては、日本や欧州においては「自然に対する作為」であり危険性が排除できないという感覚が強いわけですが、アメリカでは「危険度は交配による品種改良時に突然変異が起きるリスクと同じ」だとして、抵抗感は少なかったりします。

しかしながら、今は「トランプ時代」です。声の大きな人間、あえてケンカ腰の姿勢を取って相手を追い詰める人間が勝っていく時代であり、また「真実」というものが2つも3つもあるというのが平気で理解される時代でもあります。ナマの感情論をそのまま社会に持ち込むことも多くなっています。

そんな中で、「最もローカロリーで、安全だと思われていた」ファッショナブルな「スパークリング・ウォーター」に「ゴキブリ殺虫剤」が入っていたという「ストーリー」は勝ってしまうかもしれません。仮にそうなれば、一部の弁護士と、それに煽られた一部の原告以外は、全員が不幸になってしまう危険を感じます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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