コラム

「カオス状態」のホワイトハウス、スカラムッチ広報部長は10日でクビ

2017年08月01日(火)15時40分

プリーバス、バノンら政権幹部を口汚く罵って解任されたスカラムッチ Yuri Gripas-REUTERS

<21日にスカラムッチが広報部長に就任すると、スパイサーとプリーバスが辞任。そしてバノンを罵倒した挙句に、31日にはスカラムッチ自身が解任される。トランプ政権のゴタゴタはまだまだ続く>

ホワイトハウスの混乱が止まりません。まず、7月21日にアンソニー・スカラムッチ氏が「広報部長」に就任すると、自分の上司にこの人が来るのはイヤだという理由でショーン・スパイサー報道官が辞任しました。

新しく就任したスカラムッチ広報部長は、さらにスパイサーに近いと言われるプリーバス首席補佐官への批判を開始しました。何とも異例な話ですが、どうやらこの時点では、プリーバスとスカラムッチの力関係は逆転していたようで、結局のところプリーバスは辞任に追い込まれました。

一方で、スカラムッチ広報部長は、プリーバスとは犬猿の仲だったという主任分析官のスティーブ・バノンについても、全く別の容赦のない批判を浴びせていました。とてもご紹介できるような表現ではない、卑猥な言い方での非難であり、これはバノンとの間にも相当な確執があったことを示唆しています。

この時点でのスカラムッチ広報部長は「自分はホワイトハウスからの情報漏れ(リーク)」を絶対に許さない」とした一方で、大統領がツイートを使って世論に直接語りかけるスタイルは「これを中心にしていく」などとしていたのです。

【参考記事】トランプ政権、就任後半年間の意外な高評価

一方で、首席補佐官の後任にはジョン・ケリー国土保安長官が横滑りしてきました。このケリーという人は、海兵隊の叩き上げで、反テロ戦争の現場で戦ってきた人物です。さらに全米を驚かせたのは、何と7月31日午後(東部時間)になって「スカラムッチは解任された」というニュースが駆け巡ったのです。

とにかく、各メディアは一斉に「ホワイトハウスはカオス状態」であると騒ぎ立てています。また、スカラムッチの解任劇を受けてケイト・ハドソン主演のラブコメ「10日で男を上手にフル方法(原題は "How to Lose a Guy in 10 Days")」に引っ掛けて、「10日でクビになる方法」というパロディのポスターも早速作られる始末です。テレビではお笑い番組も含めてスカラムッチに「ムーチ」というニックネームを付けて大騒ぎをしています。

それでは、ホワイトハウスは今後、指揮命令系統を立て直すことができるのでしょうか?

例えば補佐官の中にはジャレッド&イバンカ・クシュナー夫妻(大統領の娘夫婦)がいるわけですが、発表によれば両名もケリーにレポートする、つまりケリーの部下ということになるそうです。つまり、以降イバンカとジャレッドは、ケリー首席補佐官を飛び越して大統領と勝手に物事を決めるのはダメというわけです

ですが、ケリーが就任にあたってこの点を警戒したということ自体で、既にケリーがこの両人をコントロールできていない印象も与えるわけで、不安は残ります。スカラムッチ解任を受けて会見したサラ・ハッカビー・サンダース広報官(スパイサーの辞任に伴って副報道官から昇格)は、ケリー新首席補佐官は、厳格なマネジメントでホワイトハウスに秩序を確立するだろうと言っていましたが、本当に組織としてキチンと動けるのか、まだ良くわからないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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