コラム

こんなはずではなかった「3.11からの5年間」

2016年03月10日(木)16時30分

震災から5年経った今も、日本社会は原発に関する「最適解」を見つけられずにいる kokouu-iStock.

 2011年3月11日の「あの日」から5年の月日が経ちました。震災の時点では、私はアメリカにおりましたが、アメリカからこの枠を通じて、様々な議論を続けた一方、航空便の行き来が再開されて間もなくの被災地にうかがって、より真剣なディスカッションに参加したりもしました。

 それから5年の月日が流れました。ですが、現状に関しては「こんなはずではなかった」という思いが消えません。未曾有の自然災害が国土に発生したというのは、国の、あるいは社会のあり方について「根本から考え直し」の機会であり、また「根本から考え直す」ことなくしては、真の復興はあり得ないと思うのです。

 ですが、5年という時間の中で、そのような「考え直し」は起きませんでした。「こんなはずではなかった」というのは、そんな意味です。

 まず、エネルギー政策の問題があります。福島第一原発における全電源喪失事故、その結果としての冷却失敗による1号機から3号機の原子炉事故、そしていまだに真相が分からない4号機における水素爆発事故は、原子力エネルギー利用に対する「考え直し」の機会でした。

 ですが、結果的に「エネルギー源の多様化」という問題について、社会的な合意は確立していません。事故へのリアクションとして「目に見えない放射線への本能的な忌避感情」が起きたのは必然だとしても、資源小国である日本、また温暖化への対策を推進しなくてはならない日本として、原発依存は減らすにしても、どこまで減らすのかという問題については、厳しい議論が必要だったと思います。

【参考記事】<震災から5年・被災者は今(1)> 義母と補償金を親族に奪われて

 議論が進まなかったのには、偶然ですが、その必要性がやわらいだということもあります。原発稼働を停止したことで、一時的に化石燃料の輸入が激増したことに加えて、自国通貨の価値を低める政策が発動されていたわけですが、その痛みを大きく緩和するだけの世界的なエネルギーコストの低下に助けられたからです。

 では、それで経済には追い風になったのかというと、そうではなく、電力コストの不安定を嫌って海外に流出する産業は後を断ちません。そんな中、事故から5年の直前になって、裁判所の命令で、高浜3号機では臨界を迎えたばかりの「熱々の燃料棒」を停止して冷却するという不安定で電力を食うような措置がされるなど、原子力エネルギーをめぐる問題は迷走を続けています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ユナイテッドヘルス、2024年幹部警備費用は17

ワールド

ローマ教皇、最期まで公務継続 療養中も指導者として

ワールド

ロシア・ウクライナ、二国間協議に前向き姿勢 実現な

ワールド

米預保公社、1250人削減へ 職員の2割相当
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 6
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 7
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story