コラム

内容は腰砕けだった、オバマの「銃規制案」

2016年01月07日(木)17時00分

今週オバマは乱射事件の被害者や遺族をホワイトハウスに招いて、涙ながらに銃規制を訴えたのだが Carlos Barria-REUTERS

 今週5日、新年早々にオバマ大統領はホワイトハウスに「乱射事件の被害者と遺族」を招いて、彼らに語りかける形を取りながら全国へ向けてテレビ会見を行いました。その際に「涙を浮かべながら銃の悲劇を繰り返すな」と訴える大統領の姿は、大きく報道されています。

 ですが、この「オバマ銃規制案」の内容は「全くの腰砕け」としか言いようのないものです。

 まず今回の提案は3点あるというのですが、具体的には「銃見本市(ガンショー)やネット販売などでの銃購入者の身元確認の徹底を『業者』に義務付ける」、「違法な銃取引に対する取り締まりの徹底」、「保険適用の拡大など精神疾患に対する治療の充実」というのがその内容です。

 要するに「銃規制」ということでは、1つ目の「購入時の身元チェックの強化」だけであり、2つ目はこれを徹底するための取り締まりをするということ、そして3つ目は「精神疾患の既往症のある人物には銃を売らない」のではなく、疾患に対する治療を強化するという「間接的な対策」であり、銃規制の施策として画期的でも何でもないものです。

 では、オバマ政権は「何から逃げた」のでしょうか?

 アメリカが銃社会という病理から本当に脱するためには、「警察官、保安官、狩猟ライセンス保持者」以外の銃所有を禁止し、その上で「既に社会に出回っている銃の回収」を行わなくてはなりません。

 要するに国民の武装解除ということになりますが、これは合衆国憲法修正第2条の「市民の武装の権利」の改正が必要となります。その改正については、要するに独立戦争に由来する市民の「自衛権・革命権」を取り上げることになり、事実上不可能と言えます。

 ですが、「銃禁止」は無理にしても、アメリカで有効な銃の規制として検討されている案はもっと他にあります。具体的には次の3つです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ関税発表控え神経質

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story