コラム

GDPマイナスのショック、アベノミクスの現在

2014年11月18日(火)12時52分

 14年7~9月期のGDP速報値が発表になりました。年率換算でマイナス1・6%というのは、かなり厳しい数字です。この数字をどう評価するかは、今回の解散総選挙でも大きな論点になるでしょう。安倍政権の一連の経済政策「アベノミクス」の真価が問われるということです。

 この「アベノミクス」についてですが、一般によく言われる解説としては「第1の矢」、「第2の矢」が成功したら、その勢いで「第3の矢」を放つというものがあります。つまり、円安と株高、景気回復を実現したら、その勢いで構造改革と成長戦略を実現するという「順番」といいますか、ストーリーです。

 もちろん、当初からアベノミクス全般に対して否定する意見もあったわけですが、とにかく円安と株高が実際のものになることで、とりあえず「これに乗ろう」ということになった、少なくとも世界市場の反応はそうだったし、日本の経済もそのように動いているように見えました。

 私も、現実論としては競争力の回復のためにも、あるいは競争力を喪失した部分の「損切り」のためにも、企業や個人が株高で潤うこと、円安メリットを生かすことは否定できないという立場でした。

 ですが、今回の「マイナス1・6%」という数字を受けて思ったのは、別のストーリーです。

 その前に、再確認しなければならないのが「アベノミクス」の現状です。まず2012年末から現在までの2年弱で、日経平均は9000円前後から最高値の1万7000円ぐらいまで88%上昇したというのは事実ですが、同時に円は80円から116円まで対ドルで31%下落しています。

 ということは、日経平均はドルで見れば30%しか上昇していないのです。2012年末にドルベースで112ドル、2014年11月の「黒田バズーカ」時点では146ドルという数字を見れば、確かに上昇率は30%です。この2012年末から2014年末で30%というのは、NYダウの上昇率と同じです。

 ということは、仮に日経平均の対象銘柄が北米を中心としたグローバルな市場を相手にしていて、NYダウと同様に成長していたとして、株価がNYダウと同じように30%上昇したとします。そして、ドル円の為替レートが動いただけだとして、現在の「アベノミクス株高」は説明できてしまうのです。

 別にバブルを発生させる必要はないのです。グローバル化した日本企業が、北米を中心とした景気に乗っかって業績を拡大する、その上で上昇した株価を、下落した円で表現すれば「88%上昇」は説明できてしまうのです。

 一方で、国内のGDPがマイナスというのはどういうことなのでしょう?

 日本経済は分裂している、そう考えることができます。グローバルな市場を相手にビジネスをしている部分は、北米などの景気の安定した市場で業績を伸ばすことができるし、その収益を「安くなった円に換算後の膨張した数字」で見ることもできます。稼いだ数字を円で見れば自動的にそうなるのです。何も円を買って国内に還元させる必要もないのです。

 ですが、国内を相手にしている内需型のビジネスは人口減によるデフレ的な消費者心理や弱い官需、弱い設備投資の影響をひきずっており、それが「マイナス」という数字になっているわけです。そう考えれば円安が株高になること、その一方で、GDPがマイナスになることの説明はつきます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防

ワールド

アングル:トランプ氏のカナダ併合発言は「陽動作戦」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 10
    ロス山火事で崩壊の危機、どうなるアメリカの火災保険
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 9
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 10
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story