コラム

分離独立運動は「内乱」なのか?

2014年09月16日(火)11時42分

 スコットランドがイギリスから独立するかどうかを決定する国民投票が、18日に迫っています。この問題に関しては、アメリカでは「どう考えても金融面では分離独立は不利になるはず」であるとか「スペインのカタルーニャ独立運動に飛び火したら大変」といった見方が金融界ではされていますが、意外と「冷静に見つめる」スタンスになっています。

 少々残念なのは、今回の「独立運動」の背景にあるカルチャーが「非核国家になりたい」とか「もっと環境や、多様性を重視したコミュニティになりたい」という、ある種の「北欧路線」への志向だということが、アメリカにはあまり伝わっていないということです。

 ちなみに、スコットランドを代表する有名人というべき、バイオリニストのニコラ・ベネデッティという人は、今回の動きに合わせるように『スコットランド幻想曲、帰郷』という全編がスコットランド民謡のメロディーでみたされたエモーショナルなアルバムを発表しています。

 その深く歌い込まれたメロディーを聞いていますと、スコットランドの人々の思いというのが、実に平和的で柔和な感覚であることを実感します。そこにあるのは、ナショナリズムによる怨念や復讐心などとは全く無縁の、自分たち「らしさ」への自然な思いなのだと思います。

 そのベネデッティ自身は、独立問題に関しては「態度を決めかね」ている、取材に対してはそう答えていました。「独立への思いは痛いほど分かりますが、独立によって何が起こるか誰にも分からない中、多くの人が苦しむ可能性もゼロではない」というのが理由ですが、彼女のそうした真摯なコメントが、今回の独立運動に対するスコットランドの人々の真剣さを図らずも伝えているように思われました。

 ところで「独立」といえば、沖縄県知事選に出馬を表明した大城浩詩という人が、「1年以内に琉球国を独立させる」ことを基本政策に掲げたのに対して、保守派の著名な論客がツイッター上で、「内乱罪か内乱陰謀罪が適用できる」と指摘。また、「国からの独立自体が暴動となり、それが現実味を持てば自衛隊が投入されるだろう」とも発言したそうです。

 この問題に関して言えば、日本の国内法からすれば理屈としてはそうなるでしょう。ですが、仮に独立派が過半数であり、平和的な独立運動を志向しているにも関わらず、独立を認めないとして政府が治安部隊を派遣した場合は、国際法上は、その地域の国家主権は限定され、国際連合が監視活動を開始するのが通例です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相「国益考え対応」、米関税めぐる自民部会 

ビジネス

インド卸売物価、3月は前年比+2.05% 4カ月ぶ

ビジネス

英労働市場に減速の兆し、企業の税負担増を前に 賃金

ワールド

ウクライナ和平案、米国との合意は容易ではない=ロシ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story