コラム

ウクライナ東部、旅客機撃墜を取り巻く複雑な状況

2014年07月18日(金)11時56分

 7月17日の米国東部時間のお昼前後に、「ウクライナ東部で、マレーシア航空のボーイング777型機が不明に」というニュースが駆け巡りました。ネット上の反応などを見ますと、誰もが一瞬、3月に発生したインド洋での同社の同型機の失踪を思い起こしたようです。

 あの時は、機体が消えてしまい現在でも不明になっています。ですが今回の場合は、事件が現地の昼間に発生したこともあり、様々な動画や静止画があふれる中で、数時間のうちに事態の概要が大きく報じられるようになっています。

 映像の中には、明らかにマレーシア航空機の塗装やマレーシアの国旗の表示のある機体外壁の大きな破片があり、また遺体などから回収されたパスポートの山など、胸の痛む画像もあります。マレーシア航空のアムステルダム発、クアラルンプール行きの「MH17便」であることは間違いないようです。乗客乗員298人の生存は絶望的と言われています。

 この事件ですが、現時点で報じられていることを整理しておきます。

 墜落したのは、ウクライナ東部の「ロシア系の分離主義者が支配している」地域です。墜落現場の映像は出回っているのですが、その一方で、遺体や遺品の収容などについては、組織的な動きが出来ているのかは不明という報道があります。機体の残骸を勝手に持ち出すなどの行為が横行しているという報道もありますし、また、同機のフライトレコーダーなどが入った「ブラックボックス」は既に回収されて、「分離主義者」が持ち去ったと言われています。

 墜落の原因は地対空ミサイル(おそらくはSA−17などの俗称「ブーク」システム)の攻撃による可能性が濃厚とされています。この「ブーク」システムですが、ウクライナがソ連邦であった時代からこの地で製造が続けられており、現時点ではロシア軍、親ロシアの分離主義者、そしてウクライナ政府軍の三者が共に保有しているようです。

 ここ数週間、この地域での戦闘は激化しており、地対空ミサイルによる攻撃も行われていたようです。特に事件の前日の16日には、「親ロシアの分離主義者」の攻撃により、ウクライナの戦闘機「スホイ25型」が地対空ミサイルで撃墜され、ウクライナ政府側は激しく抗議していたという事情があります。その2日前には、同じくウクライナの輸送機「AN−26」も撃墜されています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金正恩氏「大型艦の保有近い」 海軍力強化の重要性強

ワールド

ベネズエラ野党候補、スペインに出国 扇動容疑で逮捕

ワールド

フランス全土でデモ、マクロン氏の首相選出に抗議

ビジネス

景気懸念再燃、ボラティリティー上昇も=今週の米株式
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに
  • 3
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元で7ゴール見られてお得」日本に大敗した中国ファンの本音は...
  • 4
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 5
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…
  • 8
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 9
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 10
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 1
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つの共通点
  • 4
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 5
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 6
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 7
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 8
    再結成オアシスのリアムが反論!「その態度最悪」「…
  • 9
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story