コラム

日本の民主主義はどうして「順序が逆」なのか?

2013年12月10日(火)12時08分

 特定秘密保護法案が可決されました。私は、事実上与党単独での採決がされたということよりも、以前は使われていた「強行採決」という言葉を使うべきところを、「採決の強行」もしくは「採決強行」と言い換えることで「ニュアンスを弱めた」というメディアの姿勢に違和感を覚えました。

 それはともかく、もっと違和感を覚えさせるのは民主主義の実質的なプロセスと言って良い「世論とのコミュニケーション」が「可決前」ではなく「可決後」に行われている、つまり「順序が逆」ということです。

 例えば安倍首相は法案の可決成立後に記者会見を開いて「今後とも懸念を払拭(ふっしょく)すべく、丁寧に説明していきたい」などと述べ、審議が不十分だったとの指摘に対し、「真摯(しんし)に受け止めなければならない。もっと時間を取って説明すべきだったと反省している」と話しています。

 可決後に動き出したということでは、メディアもほとんど同じです。NHKや共同通信などは法案成立後の12月9日になって世論調査結果を発表し、首相の支持率が低下したとか、法律への懸念があるという報道を繰り広げています。例えば共同通信は「8、9両日に実施した全国緊急電話世論調査」に基づいて『秘密法「修正・廃止を」が82% 内閣支持率急落47%』という記事を配信しています。

 法案賛成の側も同じです。産経新聞(電子版)は、法案の実務的な内容と東アジアの政治情勢を結びつけた「秘密保護法成立 適正運用で国の安全保て 知る権利との両立忘れるな」という分かりやすい記事を「主張」欄に掲載していました。保守の視点は明確で、論点の整理された記事ですが、これも可決成立後なのです。

 この「順序が逆」という話ですが、今回が初めてではありません。多くの法案について、可決成立の後に「政府公報」などを使って「ご存知ですか制度改正?」などのキャンペーンをやって「周知徹底」とか「懸念払拭」に努めるというのは、日本の政府の「常道」です。どうやら国会というのは、内容が国民に周知されてもいないし、懸念も消えていない段階で決定する機関のようにも思えます。

 近年では、そのために大混乱を生じた法律もあります。後期高齢者医療制度がそれで、小泉改革の一環として成立させた時点ではロクな説明もせずにおいて、施行が近づくと「ご存知ですか?」キャンペーンを張った結果、75歳以上の高齢者には「不利益変更部分がある」ことが判明して批判の大合唱になったわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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