コラム

世界大会2連覇、もっと注目されていい日本のリトルリーグ

2013年08月27日(火)13時21分

 アメリカ東海岸の夏の風物詩、13歳までの少年たちによるリトルリーグ世界大会は、8月25日(日)に2万8111人の観客の見守る中、ペンシルベニア州ウィリアムズポートの専用球場で決勝戦が行われました。世界各国から来た少年たちとアメリカの各地方代表が2週間以上、一緒に合宿生活をしながらトーナメントを戦った彼等の夏は終わりを告げました。

 その決勝戦ですが、1点を争う緊迫した展開の末に6対4で日本の武蔵府中がカリフォルニア(サンディエゴ郡チュラビスタ市の代表チーム)を抑えて勝ちました。日本は昨年の北砂に続いての2連覇であるだけでなく、2010年の江戸川南の優勝を含めると4年間で3回の世界選手権制覇を遂げたことになりました。

 アメリカでの報道は大きな扱いでした。日本人に関する野球のニュースということでは、先週の「イチロー選手の日米通算4000本安打」があります。このニュース、事前には「どんな価値があるのか?」といった論争がありましたが、その瞬間になってみるとアメリカの野球界として「4000」という大きな数字に対してしっかりリスペクトの姿勢を見せていました。そのイチロー選手のニュースと比較すると、今回のリトルの連覇に関する報道はそれ以上でした。

 ところが、このニュース、日本ではほとんど報道されていないようです。

 私は、2010年の江戸川南の優勝に際しても、「どうして日本では注目されないのか?」ということを本欄の記事で取り上げたことがあります。その際の結論としては、13歳以下のレベルでは日本の場合は「軟式野球」が主流であり、硬式を使うリトルの存在はマイナーであることが原因だろうと指摘しています。また、硬式を使用しつつダイヤモンドの大きさは小さな「リトル専用球場」が普及していないので、今後の日本リトル発展のためには、球場のインフラを整備することが大切だという主張も加えています。

 ですが、その後、2012、2013年と連覇を達成したことで、アメリカにおける日本のリトルリーグの評価は更に高くなっています。それにも関わらず、日本のメディアが沈黙したままというのは、どういうことなのでしょう?

 一つには、「リトルリーグ」というのは「ベースボール・カルチャー」に属しているということです。投手には投球数の制限が厳格にあったり、試合後はお互いの栄誉をたたえ合うとか、審判の権威は絶対というような、「アメリカ式のカルチャー」が濃厚なリトルは、「野球カルチャー」に慣れきった日本人には、どこか心に響かないところがあるのかもしれません。

 あるいは、12~13歳の時点で「世界を極めて」も、中学の部活の野球では「先輩後輩の関係の中での最下位」に位置づけられるわけで、そんな年齢の子どもたちが脚光を浴びるようだと、上下のヒエラルキーが崩れてしまう可能性があるわけです。そんな中で、「リトルの世界大会」というのは、「あくまでリトルリーグの小さな世界の中」の「海の向こうの話」にしておく、そんな心理が働いているということも考えられます。

 アメリカの場合このリトルの世界大会というのは、協賛企業を沢山集めて運営されています。例えば、子供向けの食品メーカーや飲料メーカー、あるいは家族向けの自動車メーカーなど協賛企業にはビックネームが並んでいます。ですが、日本の場合は少子化のために人口ピラミッドが崩れてしまっており、13歳以下の少年野球というコンテンツにターゲット層を重ねてくる協賛企業は少ないのかもしれません。

 例えばですが、文武両道のカルチャーが存在しない中で、12歳の夏というのは、中学受験を目指す子どもたちは塾通いをして過ごすわけです。ということは、野球に熱中している層とその家族というのは教育産業のマーケットとは別になってしまうということも考えられます。

 それにしても、他でもない日本の代表チームが野球の本場であるアメリカで、しかも少年野球発祥の「聖なる地」であるウィリアムズポートで「アメリカ代表を破って世界一」になっているわけです。それも2年連続で、しかも過去4年間のうち3回は勝っているのです。もう少し注目されてもいいのではと改めて思います。

 このウィリアムズポートですが、ニューヨークからは州間高速道路(インターステート)80号線を真っ直ぐ西へ300キロ、約3時間強の距離にあります。ニュージャージー州の北部を横断し、デラウェア川の渓谷やアパラチア山脈の大自然などを通る、素晴らしいドライブになるはずです。来年こそ、野球好きの方々、各メディア関係者の方々には是非、8月のこの「リトルリーグ世界大会」を経験していただきたいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、フェンタニル巡る米の圧力に「断固対抗」=王外

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story