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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
世界大会2連覇、もっと注目されていい日本のリトルリーグ
アメリカ東海岸の夏の風物詩、13歳までの少年たちによるリトルリーグ世界大会は、8月25日(日)に2万8111人の観客の見守る中、ペンシルベニア州ウィリアムズポートの専用球場で決勝戦が行われました。世界各国から来た少年たちとアメリカの各地方代表が2週間以上、一緒に合宿生活をしながらトーナメントを戦った彼等の夏は終わりを告げました。
その決勝戦ですが、1点を争う緊迫した展開の末に6対4で日本の武蔵府中がカリフォルニア(サンディエゴ郡チュラビスタ市の代表チーム)を抑えて勝ちました。日本は昨年の北砂に続いての2連覇であるだけでなく、2010年の江戸川南の優勝を含めると4年間で3回の世界選手権制覇を遂げたことになりました。
アメリカでの報道は大きな扱いでした。日本人に関する野球のニュースということでは、先週の「イチロー選手の日米通算4000本安打」があります。このニュース、事前には「どんな価値があるのか?」といった論争がありましたが、その瞬間になってみるとアメリカの野球界として「4000」という大きな数字に対してしっかりリスペクトの姿勢を見せていました。そのイチロー選手のニュースと比較すると、今回のリトルの連覇に関する報道はそれ以上でした。
ところが、このニュース、日本ではほとんど報道されていないようです。
私は、2010年の江戸川南の優勝に際しても、「どうして日本では注目されないのか?」ということを本欄の記事で取り上げたことがあります。その際の結論としては、13歳以下のレベルでは日本の場合は「軟式野球」が主流であり、硬式を使うリトルの存在はマイナーであることが原因だろうと指摘しています。また、硬式を使用しつつダイヤモンドの大きさは小さな「リトル専用球場」が普及していないので、今後の日本リトル発展のためには、球場のインフラを整備することが大切だという主張も加えています。
ですが、その後、2012、2013年と連覇を達成したことで、アメリカにおける日本のリトルリーグの評価は更に高くなっています。それにも関わらず、日本のメディアが沈黙したままというのは、どういうことなのでしょう?
一つには、「リトルリーグ」というのは「ベースボール・カルチャー」に属しているということです。投手には投球数の制限が厳格にあったり、試合後はお互いの栄誉をたたえ合うとか、審判の権威は絶対というような、「アメリカ式のカルチャー」が濃厚なリトルは、「野球カルチャー」に慣れきった日本人には、どこか心に響かないところがあるのかもしれません。
あるいは、12~13歳の時点で「世界を極めて」も、中学の部活の野球では「先輩後輩の関係の中での最下位」に位置づけられるわけで、そんな年齢の子どもたちが脚光を浴びるようだと、上下のヒエラルキーが崩れてしまう可能性があるわけです。そんな中で、「リトルの世界大会」というのは、「あくまでリトルリーグの小さな世界の中」の「海の向こうの話」にしておく、そんな心理が働いているということも考えられます。
アメリカの場合このリトルの世界大会というのは、協賛企業を沢山集めて運営されています。例えば、子供向けの食品メーカーや飲料メーカー、あるいは家族向けの自動車メーカーなど協賛企業にはビックネームが並んでいます。ですが、日本の場合は少子化のために人口ピラミッドが崩れてしまっており、13歳以下の少年野球というコンテンツにターゲット層を重ねてくる協賛企業は少ないのかもしれません。
例えばですが、文武両道のカルチャーが存在しない中で、12歳の夏というのは、中学受験を目指す子どもたちは塾通いをして過ごすわけです。ということは、野球に熱中している層とその家族というのは教育産業のマーケットとは別になってしまうということも考えられます。
それにしても、他でもない日本の代表チームが野球の本場であるアメリカで、しかも少年野球発祥の「聖なる地」であるウィリアムズポートで「アメリカ代表を破って世界一」になっているわけです。それも2年連続で、しかも過去4年間のうち3回は勝っているのです。もう少し注目されてもいいのではと改めて思います。
このウィリアムズポートですが、ニューヨークからは州間高速道路(インターステート)80号線を真っ直ぐ西へ300キロ、約3時間強の距離にあります。ニュージャージー州の北部を横断し、デラウェア川の渓谷やアパラチア山脈の大自然などを通る、素晴らしいドライブになるはずです。来年こそ、野球好きの方々、各メディア関係者の方々には是非、8月のこの「リトルリーグ世界大会」を経験していただきたいと思います。
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