コラム

今の世界から見た「日本の参院選」の意味とは?

2013年07月09日(火)12時50分

 投開票まで2週間を切った参院選ですが、日本国内のムードはどうも低調に見えます。他党への不信感が拭えない状況下、比較優位という効果もあって自民党の優勢という状況は固まっている、そんな「シラけた」感じが伝わってきます。

 ですが、世界的に見れば、日本のこの参院選は意味があるのです。日本国内の視点では「全くの内向きの政争」に見えているのかもしれませんが、決してそうではないと思います。

(1)政治的保守が金融緩和とバラマキに傾き、政治的中道がその危険性を指摘するという構図は、世界的に見れば、大変に珍しい対立構図です。世界の常識としては、保守は緊縮、リベラルは緩和というのが普通だからです。ですが、世界的に景気が不安定な中で「これまで自制していた緩和策へ全開で進む」のが正しいのか、「巨大な国家債務を背負う中で金融緩和の危険性を意識する」のが正しいのかという「選択」をしているというのは、国としては非常に真面目な姿勢だと思います。

(2)隠れた争点として、消費税率アップと社会保障の「一体改革」の問題があります。この種の問題に関しては、税負担への嫌悪感を煽れば票が来るとか、福祉の受益者には既得権の守護者だと言えば票が来るというポピュリズムが、ギリシャでもスペインでも、そしてアメリカでも問題の解決を難しくしています。日本の場合は超高齢化社会へ向かうという「人類に先行した厳しい条件」も背負っているわけですが、そのような中で財政規律を有権者が選択するのであれば、それはそれで非常に立派であるわけです。

(3)グローバル経済を受け入れて競争力向上に努力するのか、保護主義的に後ろ向きになって当座の「痛み」を先送りするのかという「選択」もヨーロッパを始め、多くの国での選択になっているわけです。日本の場合は、その選択ができないために20年も貴重な時間を空費したわけですが、逆に「こんなに長い間できなかった」のだから「本当の改革が出来れば復活の可能性はある」という世界の期待は大きいのです。特に中国経済にスローダウンの兆候が見える中、日本への期待は非常に大きくなっています。

(4)トルコやエジプトなど、分厚い若年人口を抱える国では、「年長者による窮屈な伝統的価値観の押し付け」に対する激しい異議申立てが出ているわけです。これは60年代の欧米や日本、80年代の韓国などと同じ現象であって「反乱を起こした若者」は20年後には経済成長を牽引するようになっていくのでしょう。逆に人口全体が高齢化しつつある日本の場合は、「下の世代の反抗に期待する」ことは難しくなっています。伝統的価値観が暴走することで経済社会を衰退に引きずっていくのか、反対に高齢層も「日本社会が永続するための改革」を認めていくのかといった「文明の命運」の問題を自分で選択していかなくてはならないわけです。こうした構図も大変に興味深い点です。

(5)価値観の問題といえば、日本の憲法論議に関しては、例えばアメリカの日本通からは2点に関心が集中しています。1つ目は、「アーティクル9」つまり「憲法9条」に関してであり、集団自衛権や日本の防衛負担を正当化するような改正がされれば「アメリカとしては負担が減る」という期待があります。もう1つは、「天賦人権を否定する」ような「復古主義」が出てくるのは頭が痛いという問題です。イスラム圏での復古主義とは別の形で、旧儒教文化圏での復古主義が出てくるというのは、アメリカの価値観外交をやりにくくするだけでなく、経済社会の結びつきにも悪影響があるからです。要するにアメリカとしては、9条は緩和して欲しいが、復古主義は困るというのが相当にハッキリした立場です。

(6)日本の復古主義もそうですが、東アジア諸国のナショナリズムが相互に意地の張り合いになっている問題は、世界的に見れば頭の痛い問題です。1つは、アジアにおける国際分業が上手く機能しないと、世界経済の成長へ大きなマイナスになるという点です。そして2点目としては、日中韓台4カ国の関係に見られるように、「自由と民主主義を大義とする同盟」が崩れてゆくという危険性です。どちらも、困った問題であって、日本の有権者が「より問題をエスカレート」させる兆候を見せるのかどうかは、注目されていると思います。

(7)エネルギーと環境の問題に関して言えば、日本が「エネルギー多様化」と「排出ガス削減」という大きな2つの政策を捨てて、化石燃料への依存に走っていることには懸念があると思います。今年2013年には11月にワルシャワでCOP19会議があるわけで、仮に日本で「安定政権」が誕生したとして、その政権が「ポスト京都議定書」を決めるCOP21へ向けて今年のCOP19でどんな姿勢を取ってくるのかは世界が関心を寄せてくると思います。

 こうした観点から見れば、今回の参院選は決して「内向きニッポンの白けた政治ドラマ」などではないと言えます。そんな中、個々の候補者に対して、政策面での厳しい視線が注がれることが重要だということと、結果に関しても「個々の問題に関する民意」が浮かび上がる点には注目したいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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