コラム

アベノミクスの現状を考える論点

2013年03月29日(金)14時13分

 今夜は「朝まで生テレビ」(テレビ朝日系列)がこのテーマを議論するようですし、日本にとっては年度末でもあるので「アベノミクス」と言われる、安倍政権の「金融緩和、円安誘導」について、現状を考える上での注目点を整理してみたいと思います。

(1)まず、「どうしてアメリカのリベラル派が支持するのか?」という問題があります。ポール・クルーグマンに始まって、最近ではジョセフ・スティグリッツも加わり、「ノーベル経済学賞受賞のリベラル派の重鎮」が揃って「アベノミクス支持」を打ち出しています。これは、アメリカの場合、「金融緩和と弱い自国通貨」というのは完全に「リベラルの政策」になるということが一番です。これに加えて、「オバマがやってきたこと」について「別の国でも成功例」を見てみたいという政治的動機もあるように思います。

(2)その一方で、12月に安倍政権が発足して以来、ヨーロッパなどからは「為替操作」という批判が出ています。こうした批判を受けることが「アベノミクスの継続を難しくしている」という声もありますが、この「為替操作という批判」はどう考えれば良いのでしょうか? この点に関しては、要するに「先進国はみんなやりたがっているし、やっている」中で、日本だけが「ドル安、ユーロ安」の受け皿になってくれていたのが、そこから脱却するのは「ずるい」という「勝手な声」に過ぎないように思います。最近はこうした声がトーンダウンしているわけで、先進国は横並びで金融緩和を行なって、横並びで「全体の破綻を回避」しようとしているとも言えるでしょう。

(3)では、このまま「アベノミクス」は国際社会から認知されて行くのでしょうか? 基本的にはそうです。ですが、それはあくまで「21世紀型不況に対する金融緩和政策」を横並びでやっているからであって、その限りにおいて一体化しつつあるグローバルな社会に日本が寄与するという前提あってのことです。逆に日本が保護主義的な政策から脱せなかったり、人権などの国際的な規範を軽視したり、あるいはアジアにおける平和の撹乱要因だと名指しされたりするようですと、信用は一気に崩れる危険性もあると思われます。

(4)その一方で、ここへ来て円安トレンドが止まりつつあるようですが、これはどうしてなのでしょうか? 一つにはキプロス問題があると思います。キプロスの金融危機は規模は小さいのですが、欧米はかなり神経質になっています。その結果として、一番影響の薄い「円」が買われたという面が1つ、後は、ここへ来て欧米で「アベノミクス」の評判が良くなり、少しずつ外国人投資のマネーが来始めたということもあるかもしれません。これで95円が下限だという安心感が出れば、外国の資金が入って株高が継続することもあり得ます。それはそれで悪いことではないと思います。

(5)では、この3月期の企業決算はどうなるのでしょうか? たぶんそんなに良くはないと思います。輸出への円安効果の寄与も四半期1回分だけですし、まだまだ各企業は「積極的に設備投資」という状況ではありません。では、今回決算の企業業績には「アベノミクス」のプラスの効果はゼロかというと、そうではなくて株高の資産効果などで数字が良くなることで「リストラの特別損を出せる余力が出る」ということはあると思います。その意味で、今回決算で堂々と大きな特損を計上してくる企業の中には、急速に体質改善に向かうものもあるかもしれません。

(6)問題は貿易収支です。巨大な規模での化石エネルギー購入を続ける中で、現在の日本は「貿易収支の赤字国」になっています。全体が赤字ですから、円安はマイナス要因になるわけです。これは「動かさなくても固定費のかかる」原発を稼働すれば、大きく改善する可能性がありますが、もしも政権がその方向に向かうのであれば、堂々と参院選で信を問うべきだと思います。一方で、再稼働に反対する軸を結集するのであれば「経済成長と両立する大胆な省エネ政策」を提案しなければ、結局は経済は破綻に向かう危険性から逃れられないように思われます。

(7)仮にこのまま「アベノミクス」の株高が続き、4月以降は多少実体経済に明るさが出てきたら「7月の参院選は楽勝」であり、場合によっては区割り変更をした衆院選までダブルでやって「両院で圧倒的多数を」という計算が自民党にあるようです。ですが、話はそう簡単ではないと思います。何故ならば、昨年12月の解散というのは「税と社会保障の一体改革」が前提であり、3党合意の一角を担った自民党にはその実行の責任があるからです。ですが、この問題に関しては、自民党政権下では議論が進んでいません。進まないということは、福祉の受益者層からの不満が突き付けられる危険だけでなく、世界の投資家から日本の財政への不信感を持たれる危険もあるわけです。消費税はアップしたが、その分は公共工事に消えるというのでは、日本国債売りの口実を与えるようなものだからです。この問題は、もしかしたら「アベノミクス」全体に関わる大きな弱点かもしれません。

 以上は、中長期的な観点ではなく、数カ月単位での短期的な「見通し論議」の材料として問題提起したものです。とにかく短期的には「良いトレンド」が持続し、その間に中長期の議論がしっかり進むことが最も大切ではないでしょうか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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